劇場公開日 2022年11月18日

  • 予告編を見る

「「生きるのが辛い」人の心情は想像するしかない。」ある男 ガバチョさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0「生きるのが辛い」人の心情は想像するしかない。

2022年11月28日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

戸籍交換で違う人間として生きるのは、ミステリー小説などではよくある話である。しかしそれは普通、犯罪を犯すなどして身分を知られないようにするためである。本人は何も悪いことをしていないのに、違う人間になって生きなければならなかった男の苦悩を描いたのがこの作品である。
主人公(大祐)の気持ちは他人には分からない。死刑囚の息子として世間から迫害を受けたというような事は特に描かれていないので、むしろ(大祐)の内面の問題のように思う。鏡に映った自分の顔に父親を見て恐怖するのはその象徴だろう。自分で自分が許せなくて、ボクサーになって自分を痛めつける、これも彼の内面の問題だ。辿り着いた結論が「他人になって生きる」事だったとしても、映画を見る者はそのまま受け入れるしかない。
(大祐)の正体を探る城戸は、作品の中で大きな役割を負っている。自分の生い立ちと境遇に重ね合わせて(大祐)の気持ちを次第に深く理解していくように思われる。しかし、いろいろな事があり過ぎて彼の心情は伝わりにくかったように思う。
城戸の事も面白いが、作品の中心は(大祐)と里枝の愛情物語であろう。里枝が(大祐)が別人である事を知ったショックは計り知れない。しかし彼の素性を知った感想は「知っても何も変わらない」というような感じである。ここには、身にまとっているものに関わらない「真実の愛情」のようなものを感じさせる。生きるのに辛さを抱えている二人だから実現できた愛情を、窪田正孝と安藤サクラが見事に演じ切っていた作品でした。

ガバチョ