「複製禁止」ある男 ジョーさんの映画レビュー(感想・評価)
複製禁止
本作のオープニング。一人の男の背中しか映っていない一枚の絵。目の前の鏡にも背中しか映っていない。
顔のない男。原作を読んでいたので、この絵が、ルネ・マグリットの『複製禁止』であることを知る。
複製禁止のはずの人生を歩まざるをえなかった「ある男」。その男の背中を追いかけることで、自分をそこになぞらえる弁護士。過去に見切りをつけたい男たちが、どこかで重なり合っていく様。
『複製禁止』の絵が、ずっと脳裏から離れなくなる。
戸籍の交換の詐欺罪で服役している男は弁護士に、交換じゃなくて、身元のロンダリングだ、と言う。過去を洗浄したい人はいっぱいいる、と言う。
多かれ少なかれ誰しも思っている。なりすましへの憧れ。あるべき自分に近づきたいという願望。それには過去を洗浄しなければという焦燥感。
人として生きることの危うさ。忘れたころに、再び『複製禁止』の絵が映し出される。
「ある男」の妻は、一緒に暮らした日々は幸せだった、とほのめかす。
救いの言葉だ。一瞬でも、あの絵の呪縛から解き放たれるような気がした。
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