「小説を一旦解体して映画として再構築した点では成功している。一部不満点はあるとしても。重層的に問題提起が為されているが、突き詰めれば何が自分にとって“リアル”なのかを問う映画。」ある男 もーさんさんの映画レビュー(感想・評価)
小説を一旦解体して映画として再構築した点では成功している。一部不満点はあるとしても。重層的に問題提起が為されているが、突き詰めれば何が自分にとって“リアル”なのかを問う映画。
(原作既読)①映画化に際して一番興味があったのは、原作では城戸の追跡の中や理枝の記憶の中でしか語られない大祐をどう映像化するかと言うこと。そういう意味では窪田正孝の好演もあって成功している。というか、ほとんど窪田正孝が主演の印象。その分、この物語が提起する他の問題が後ろに追いやられたきらいもあるが。
②妻夫木聡は在日三世には見えないが(ここ、私のバイアスかかってます。認めます。人に対するこのバイアスもこの映画の主要なテーマの一つ)、能動的な主演よりも傍観者というか映画の中で起こる事柄を距離をおいて見ながらいつしか自分もその事件に影響されている役柄の方が向いている、ということがこの映画を見ても良くわかる。
③安藤サクラは相変わらず上手いが(定番の泣き演技も)、上手すぎて殆ど映画の背景と言ってもいいくらい映画に溶け込んでいるのが痛し痒し。
④柄本明の怪演が凄い。妻夫木聡の受けてたった演技も大したものだがやはり貫禄負けは否めない。役柄の上でも城戸を翻弄し価値観を嘲り揺さぶる。
城戸が在日だということを顔を見ただけで分かり(ここ、私の父親が私の子供の頃、“被差別部落の人間は顔を見れば分かる”といい放ったことを思い出させる)、“在日なのに在日に見えないようにしているのが在日の証拠なんだよ”というある意味真理を突いたことをいい放つ。それに対して城戸は図らずも“もう帰化して日本人です”と返してしまい、城戸の中にあるアンコンシャス・バイアスを露呈させてしまう。
また、“あんたの一番アホなところは、私がホンモノの小見浦憲男というのがどうして分かる、というところや”という台詞。
社会生活を送る上では名前・戸籍や肩書き(仕事をしてる間だけだけど)等は必要だが、それがどれだけ脆いものか、我々がどれだけそれに依存しまた疑いを抱いていないかという現代人の認識の危うさを突いたキツイ一言。この映画の主要テーマを一言で表している台詞だ。
⑤バイアスだらけの人間も多く登場するが私たちにとって決して他人事ではない筈。
⑥あと、偽の大祐から原誠を突き止める事に殆どの尺を使ってしまったので本物の大祐の方の話がはしょられてしまって中途半端に終わってしまった。
⑦山口美也子も歳とったねえ。昔日活ロマンポルノで活躍していたのが嘘みたいなホントにそこら辺のお婆ちゃんみたいになってしまった。
池上季実子も城戸の妻の母親として1シーンだけの出演だが、“まだ映画に出てるんだ”と妙に懐かしい。
⑧真木よう子は、少ない出番ながら城戸の冷たいのか優しいのかわからない妻を演じて存在感があった。