「沼に落ちていく」死刑にいたる病 nazionaleさんの映画レビュー(感想・評価)
沼に落ちていく
とにかく阿部サダヲをこの役に抜擢した時点で勝負あり。
人当たりがよくすぐに人の懐に入る気のいい隣人のような一面と、狂気性に満ちた異常な連続殺人鬼としての2面性を見事に演じ分けている。
彼がそこにいるだけで場に尋常ならざる緊張感とピンと張り詰めた緊迫感が生まれ、見ているだけで胃がキリキリするような感情に追い込まれていく。そしてその真っ黒な目に我々観客すら吸い込まれてしまう。
勿論その他俳優陣の演技も隙がなく、白石監督独特のディレクションや演出力、トーンを落とした画やじっくりと人物を這い回るようなカメラワークなども光っていたが、作品の中心にいる阿部サダヲの持つ惹きつける力が全体を見事に引き締めている。
今作と同じ白石作品で言えば孤狼の血の役所広司のようにこの人の存在だけで成り立ってしまうと言えてしまうほど。
さながら語りかける病原菌のように人間の理性を貪り懐柔してしまう恐ろしい根幹に説得力を持たせ、観客すら飲み込むような表現力で映画が終わったあとにまでまとわり付く この嫌な感情。
それが反転して快感にも形を変えうる味わいを生み出していた。
最早現代の邦画界で白石和彌ほど人間の暗部をえぐり出せる監督はいないんじゃないかという気がしている。
今晩は。
”最早現代の邦画界で白石和彌ほど人間の暗部をえぐり出せる監督はいないんじゃないかという気がしている。”
全く同感です。白石和彌監督作品で最初に劇場で観た「凶悪」で、暫く席から立ち上がれない程の衝撃を受け(あの、リリー・フランキー演じる先生の狂気性の禍々しさ)、その後も「日本で一番悪い奴ら」の綾野剛と今や邦画の代表女優になられた婦人警官を演じた瀧内公美のシャブセックスのシーン(良いのか、良いのか??映倫上良いのか?・・)、その後の若松考二監督の系譜を継いだ作品群”孤老の血”シリーズで築き上げた盤石の地位。
「麻雀放浪記2020」などの怪作もありますが、今やダークテイストの邦画を代表する監督になられたのは、嬉しき限りです。では。返信不要です。