「この涙は何の涙?」余命10年 tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
この涙は何の涙?
「短い人生だったけど、愛し合える人と出会えて、かけがいのない日々を過ごすことができた」というのが、この映画のテーマであろう。(主人公が書いた小説にも、そのような一節があった。)
しかしながら、主人公は、余命が幾ばくもないことを、なかなか恋人に打ち明けないし、そのことを告げられた恋人が、病魔と闘う主人公に寄り添うこともない。
自分が苦しむ姿を見せたくないし、相手が苦しむ姿を見たくもない。お互いに、美しい思い出だけを心に焼き付けておきたい。そうした気持ちは分からないでもないが、それが、本当に、愛し合う者たちの姿と言えるだろうか?
そう言えば、この映画で一番泣けたのは、主人公が、「もっと生きたい」と素直な気持ちを吐露するシーンと、叶わなかった結婚生活を幻視するシーンであった。でも、それって、未練を残しながら死んでいく者に対する「哀れみ」の涙ではなかったか?
その一方で、ラストシーンで泣けなかったのは、人生を精一杯生ききった主人公に対する「ねぎらい」の涙が流れなかったから。それは、共に病気に立ち向かった者にしか流すことのできない涙であり、この恋人には流すことができない涙であると感じたからである。
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