「中世ヨーロッパの空気感て、こんな感じなんだろうな」最後の決闘裁判 ゆみありさんの映画レビュー(感想・評価)
中世ヨーロッパの空気感て、こんな感じなんだろうな
3人のどの視点に立とうが、現代から視れば不条理なことだらけ。極めつけが、最後の"決闘裁判"ということになる。
ペストという疫病と戦争(百年戦争)に明け暮れる14世紀のフランスで、人々は一様に貧しく、ましてや人権なんてあったもんじゃない。社会的弱者はもちろんのこと、貴族だろうが、領主だろうが、国王だろうが、神にすがるしかなかったのだろう。そうした時代背景の中、愚直で自分なりの正義感の中で懸命に生きる騎士カルージュ。一方、生い立ちには恵まれないものの、才覚で出世していくル・グリ(恐らく人間的にも魅力的だったのだと思う)。
このル・グリは、結果として友人のカルージュを出し抜く形で成り上がり、挙げ句に戦友であるその妻にまで手を出したのだから、とんでもない男なのだが、話はそんな単純なものではない。事実、この映画もその部分で白黒をつけるようなつまらない描き方はしていない。
名誉のため?正義のため?私憤を晴らすため?嫉妬?そのすべてだったのかもしれないが、妻の命を賭してまで決闘を望んだカルージュよりも、個人的にはル・グリに同情してしまう。知性派の彼は、仮に自分に正義があると思っていたとしても、神によるご加護など、信じていなかったと思う。何故自分は命を懸けてまで決闘をしなければならないのか、本当は納得がいかなかったのではないだろうか。同じように知性派だったマルグリットも、自分の死刑を恐れていた。神のご加護など信じていなかったのだろう。
キリスト教がすべてという価値観の中で、正義なるものも、すべてを決してしまう歪み、不条理に怖さも感じた。
しかし、これには、現代にも通ずるものがある。
いまだにそのような宗教観を持って生活している人々は世界中にいる。宗教ではないが、自分の信じ込んだ正義の中で、敵と思う人々、考え方を徹底的に潰しにかかるキャンセルカルチャーなども、その一つと言えるだろう。
重い映画でしたが、いろいろなことを考えさせられる深い映画でした。
その時代の空気感をイメージできる素晴らしい映像。マット・デーモンやアダム・ドライバーなどの俳優たちの演技。鬼気迫る決闘シーンには思わず目を背けてしまった。
そして、飄々とした遊び人の伯爵を演じたベン・アフレックも良かった。
あっという間の2時間半。今年一番の映画でした。