劇場公開日 2021年10月15日

「巨匠リドリースコットの、圧倒的な映画づくり力が光る」最後の決闘裁判 ピラルクさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0巨匠リドリースコットの、圧倒的な映画づくり力が光る

2021年10月19日
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鑑賞方法:映画館

 誰かがこんなことを言っていた。文豪、三島由紀夫はなにも書いていないと。「白波の立つ海がみえた。沖合いの空には雲が白く輝いていた。」どこにでもある、なんでもないことを、語彙と考察、そして筆力でもって圧倒的なイメージに仕立て上げてて読み物にしてしまうのだと。
 この映画もそれに近い。
 ただの痴話げんかである。特筆すべきことのない出来事を、巨匠リドリースコットが、圧倒的な映画づくり力でもって、観客を埋没せしめる世界観をつくりだしてみせてくれるのである。
 その意味で、本作品のみるべきところは、ストーリーは二の次にして、まずは「映画のもつ魅力」ではないかと思う。中世の質感。空気感。なにもかも粗削りで骨太のそれらを、細緻に仕組んで世界をつくる。本物以上に本物的だと言わせしめるレベルで。映画づくりの原点で頂点を極めんとするかのように。
 俳優、筋書き、それらも大事だが、構成要素を掛け算で膨らませて映画の質をあげさせる力、それこそ監督の映画づくり力だ。で、リドリースコット、さすがの一言。ただの痴話げんかだからこそ、かえってわかりやすい。

 ひとつ、羅生門的な展開は、あまり感心しなかった。場面の解釈に三者三様のずれがあってこその羅生門だと思うのに、肝心のずれがない。嘘のありかも明瞭。羅生門というよりはTENETテネットのマルチ視点にヒントを得たストーリーテリング、ぐらいの形容なら納得。
 それとマッドデイモン。個人的に好きな役者なので、彼がパーフェクトに見える。あと味はジャン・ド・カルージュの正々堂々とした魂、それのみ強く印象に残った。直情的との解説が目立つが、そうだろうか。悔いのない正しい挙動をさっと取れるのは、徹底的に理知的でなければなせない技だと思う。だから私的にはジャン・ド・カルージュはありえないキャラである。だからヒーローに映る。
 リドリースコットからは、グラディエーターのラッセル・クロウ、この最後の決闘裁判のマット・デイモン、そしてウォルフガング・ペーターゼン監督のトロイのブラッドピット。三人のヒーローが私の中にいる。

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ピラルク