「夢と現実の境界」ラストナイト・イン・ソーホー きさらぎさんの映画レビュー(感想・評価)
夢と現実の境界
最初はエリーの母親の怨念が関係するのかと思っていたが、全然違った。
寮生活に馴染めなかったものの、サンディとの出会いを機にエリーちゃんがどんどん可愛くなっていく。60年代のきらびやかな世界はとても美しかったけれど、だからこそ夢見る女の子を食らう醜い男どもには吐き気がした。そういう時代だとわかっていても、女の子が食い物にされるのを見るのは悲しいものだ。エリーも毎夜見る夢を楽しみにしていただろうに、そういう場面を目にしてから彼女自身が現実世界で追い詰められていくのは本当に可哀そうだった。この追い詰められっぷりはまさしくホラー映画といった感じだった。現実と幻覚が入り交じってあらゆる境界が曖昧になっていく様が鏡やカメラワークを使って上手く表現されているのも見ごたえがあってよかった。
サンディが刺殺されるところは決定的なシーンだと思われたが、あれはメタファーだった。毎夜あのベッドの上でサンディは何度も何度も死んでいたのだから。とはいえ物語はホラーの中にサスペンスが混じり始め、恐怖がじわじわと増していく。この塩梅もすごく面白かった。
おばあちゃんの言うように、エリーの母は他人を頼れずに自殺してしまった。サンディもきっとそうだったのだと思う。本当は誰かを頼るべきだったのに……エリーはギリギリのところでジョンを頼ることが出来た。みんな頭がおかしいって言うけど、彼だけはエリーを信じてくれた。味方を得ることが出来たから生き延びられたのかもしれない。
悪夢を見せられ、現実の生活にも影響を与えられていたのに、エリーはあくまでサンディを救おうとしていた。それは彼女自身が田舎から夢を追ってロンドンに出てきた女の子だったからかもしれない。アレクサンドラに殺されそうになっても、彼女を救おうとした。傍目にはきっとエリーの方が壊れて見えるはずだ。でもエリーは最後までまっとうだった。アレクサンドラは夢を追う女の子のまま死んでいった。母親に代わって彼女に付きまとう亡霊になったのかと思ってひやっとしたが、ラストは案外すっきりしていて、ちょっとさみしい感じもしたけど、良い終わり方だったと思う。