「傑作…。"ホラー"とはこのこと」ラストナイト・イン・ソーホー Mahhy__*さんの映画レビュー(感想・評価)
傑作…。"ホラー"とはこのこと
公開からかなり遅くなってしまいましたが、観ました…。
傑作です。本当に傑作。
まず、これは普通のホラーではありません。
ミソジニー、男尊女卑という名の、本当にあるホラーです。
冒頭からエロイーズ(エリー)が何か鏡を通して見ることができるということが分かります。
60sが好きなエリーは夢のロンドンに大好きなファッションを学びに行きます。そしてタクシーに乗ったその瞬間から、"ホラー"が始まります。
「僕が君のストーカー1号だね」と言うタクシーの運転手、パーティーにて下ネタで女子たちに絡む男子…。
ルームメイトの女の子とも上手くいかず、早々にエリーは老女ミス・コリンズに部屋を借り、一人暮らしを始め、そこでサンディの夢、追体験が始まります。
シンガーとして成功することが夢なサンディは、敷居高いカフェ・ド・パリに出向き、女の子の束役であるジャックと知り合い、夢に向かって突き進む…と思いきや、そこに待っていたのはミソジニーの連発でした。
売れるためには男にサービスをしなければいけない。
最初こそ体を売ることを拒みますが、男に服従している他の女たちを見て、彼女も彼女自身を"殺して"体を売り始めます。
その様子を追体験しているエリーですが、エリーの目からしてもサンディが日に日に弱っていく様子は見るに堪えないものがありました。
苦しみながら男に体を広げるサンディを見る毎日に、エリーの精神も崩壊していきます。
そして遂に付き添い人のジャックに押し倒され、血だらけになっているサンディを目撃し、エリーは限界を迎えてしまいました。
ゾンビの男たちが日常に現れるようになり、最早サンディと自分が曖昧な状態でサンディ殺しの犯人探しをするエリーでしたが、なんと家主であるミス・コリンズが、本名アレキサンドラ・コリンズ、要するにサンディであることが発覚。
血だらけになっていたサンディはジャックを殺した血飛沫を浴びていたのであって、彼女は殺されておらず、それどころかサンディの体目当てで着いてきた男たちを何人も殺していたのです。
ミス・コリンズに殺されそうになるエリーに、ゾンビの男たちが「助けてくれ、彼女を殺せ」とヘルプを求めながら受話器を差し出しますが、彼女はその願いを聞き入れず、部屋になんとか入ってきたミス・コリンズと向き合うことを選びました。
エリーは、サンディが殺される様子をずっと見続けていました。
サンディは夢を正当な方法で叶えたかったのに、実力を生かすことすらできませんでした。
どれだけ辛く、悲しく、絶望したか。
「私はずっと囚人だった」と言ったミス・コリンズ
エリーの「生きて」という懇願は聞き入れず、もう遅いと言って炎の中に残りました。
これは男尊女卑というホラー映画です。
男社会に殺された何人もの女性の物語です。
ゾンビに追われて絶叫するエリーの姿、何度も映りましたね。
男に都合よく扱われ、食われるとは、あれ程恐ろしく、自身の尊厳を貶めることだということです。
誇張ではなく、あれが真の姿です。
エリーは最後、デザインで高評価を受け、拍手喝采を浴びます。
これは、まだ男尊な男(ドライバーのような)はいるけれど、女性も能力を活かせる世の中になりつつある、という現代の希望を表しているのではないか、と感じました。
また、エリーを献身的に支えるジョンも、女性と対等な男性が現代には増えていることを表していると思います。
素晴らしい映画でした。
まだ男尊な日本では、絶対に作ることができなかったでしょうね。