「ラストで首根っこ掴まれて壁に叩きつけられたような衝撃を受けた」ラストナイト・イン・ソーホー きんぴらさんの映画レビュー(感想・評価)
ラストで首根っこ掴まれて壁に叩きつけられたような衝撃を受けた
色々と書きたいことがあるが、個人的に最後のシーンが衝撃的過ぎたのでネタバレありの感想となることをご容赦頂きたい。
概要を簡単に。夢で60年代のロンドンにタイムリープしたエロイーズが、歌でのしあがろうとしているサンディの体験を、追体験する。序盤は華やかなのだけれど、途中から雲行きが怪しくなり、サンディは男達の性のオモチャとして扱われ、そして殺害されてしまう。その犯人をエロイーズが現実で突き止めようとするもの。
いきなりネタバレだが、サンディは生きていて、エロイーズが住み込んだ家の大家をしている。最終局面でエロイーズが心霊現象に耐えかねて、大家に相談を持ちかけたところ大家は自身がサンディであること、そして多くの男たちを殺害して家に隠していることを白状する。白状した理由は、エロイーズに毒を盛ることに成功したからだ。冥土の土産といったところだろう。
エロイーズが自由の効かない体で必死で逃げたのは自室。鍵をかけるもそこにはサンディに殺害された霊達が沢山いてまさに絶体絶命。逃げようにもドアの外には凶器と狂気を携えたサンディ。鍵を開けたらあの世行き。さらに詳細は省くが家には火の手が上がっており、このまま籠城することもできない。
すると多数の霊によってベッドに縛り付けられてしまう。壁を破ってできた霊に殺される——、かと思いきや受話器を取って「警察を呼べ」「サンディを殺せ」と言うのだ。
エロイーズが見た夢では、各男達が性的な目的で金にものを言わせてサンディを弄び、最終的にサンディを殺害した。
だが現実ではサンディが多くの男達を殺していて、男達の霊は今でも呪いのように部屋に住み着いている。
真実を知ったエロイーズは霊達と手を組んで、部屋から脱出して大団円——。
かと思いきや(2回目)エロイーズは驚くことに私の推測と霊の救いの手を拒んで、サンディ側についたのだ。サンディは歌でのし上がることを夢見ていたが、性の対象として扱われ自分を守るために男達を殺害していった。その苦しみがエロイーズは理解できると言ったのだ。サンディは悪くないと。
このエロイーズの判断がこの作品をただのサイコ・ホラーで終幕させない深みを出している。性の問題、人権の問題、自由の問題。多くの問題を提起しているようにも見えるし、それでいて、霊側についた場合大どんでん返しになるのに、敢えてそうしない構成。すごい。
この作りは私の想像の斜め上をいった。こんなエンディングは見たことがないし、思いつきもしなかった。絶賛。
最も驚いたのは上記だけれども、他にもサンディとエロイーズが鏡越しにいる映像にも驚いた。どのように作られたのかすらわからない。
ストーリーも撮影・編集・加工技術も素晴らしい作品だと感じた。
ただ、1点だけ気持ち悪い部分が残っているので4.5とさせて頂く。
「エロイーズが見た夢が現実と違った理由」が明かされていない点だ。仮に霊があの悪夢を見させていたのだとしたら、「サンディに自分たちが殺された」と訴えかけるために現実の、ありのままの夢を見せたであろう。ではサンディの怨念のようなものがそうさせたのかというと、ストーリーの根幹になる部分なのに支えが弱すぎる。
恐らく後者で、サンディにとって、あるいは女性にとって、夢を奪われ、道具のように扱われることは、殺されたと同義であることを伝えたかったのだと思う。だとしたならば、もう少し支柱を立てても良かったのではないかと思う。
とはいえ気になるのはそれくらいで、とにかく観賞後に「すごい!」と驚嘆した映画となった。大満足。
性的なシーン。出血のシーン。そして霊が苦手な方を除いて、是非ともお勧めしたい1作だ。