「物悲しげな恋のダウンタウン。」ラストナイト・イン・ソーホー 侍味さんの映画レビュー(感想・評価)
物悲しげな恋のダウンタウン。
そろそろ雪が降り始める、冬の長岡の映画館。
この土地でレイトショーでこの映画を観る人達。
アニャ・テイラー・ジョイがアカペラで歌う物悲しい「恋のダウンタウン」。
元曲は、ダウンタウンの煌びやかな楽園を歌っていたと思うが、今作はその曲が物悲しく妖艶になる。
夢に憧れ、やがてその夢に溺れ、悪夢に沈む。
主人公のエロイーズが垢抜けていくと同時に、サンディの沼と重なり、悪夢で溺れて足掻き続ける。
主人公の恐怖の表情がハロウィンのメイクと重なり、映画としてとにかく美しい。
エドガー・ライトは昔から映画作りがとても丁寧で、絵としての構図が美しいショットも多々ある。
ベイビー・ドライバーで着目を浴びたが、僕はなんと言ってもホットファズをあげたい。
コメディでありながら、田舎のサスペンスをうまくまとめている。
サイモン・ペッグらと離れてから撮り始めた作品は、彼の作家性が一気に炸裂して、その頂点が今作とも言えるのではないか。
途中までは僕のオールタイムベストのマルホランドドライブを思い起こす、都会の夢で挫けそうになる2人の女性と、多くの謎、そして恐怖。
安っぽいドッキリ系ホラーではなく、ある意味日本的なジワジワ精神にくるホラーなので、日本人にはすんなり受け入れられるのではないだろうか。
どことなく、映画の読後感がデルトロのクリムゾン・ピークに近いかも知れない。
クイーンズギャンビットで一躍脚光を浴びて、映画のサンディとは違い、成功を収めたとも言えるアニャ・テイラー・ジョイは今作で多くの才能を発揮して魅了させてくれる。
久しぶり良い映画に巡り会えて満足です。
p.s.
12月頭から長期出張で新潟にいるのですが、出張当日に交際相手に振られて、僕の心が恋のダウンタウン。(映画はフィクションですがこれは実話)