劇場公開日 2022年2月11日

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「ストレートという魔球」北風アウトサイダー taroさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ストレートという魔球

2022年2月26日
PCから投稿

始まってから30分は異和感が拭えなかった。役者の演技が舞台俳優のそれなのである。曖昧あるいは微妙な表情はほとんどなく、20メートル先からも、どんな表情をしているのかがわかるような大袈裟な演技に感じられた。

しかし、そのストレートな演技が途中から気にならなくなる。おそらくそれは、登場人物の置かれている複雑な状況から生まれた外圧・風圧がストレートな感情表現に微妙な変化をもたらしているのだと思う。たとえば「お前、ええかげんせえよ!!」という単純な激怒表現が、「(朝鮮人として生きることの誇りも大事やけど、そのしんどさもわかるし、オモニに対する愛情もあるし、恨みもあるし、自分は偉そうなこと言えるほど立派に生きてるわけでもない、、、、けど)お前、ええかげんせえよ!!」という複雑な感情表現になるのである。役者の演技の質が変わるわけではないが、ストーリーが進むにつれ、各登場人物の境遇の複雑さに対する理解が進み、それが演技に多義性をもたらすのである。そうなると、セリフの一つひとつに含蓄を感じて、物語に感情移入できるようになる。

もしかしたら事情は逆かもしれない。生きる状況が生み出す様々な外圧や風圧が強いからこそ、それに負けないようにストレートな表現になるのかもしれない。だとしたら「大袈裟な演技」という評価は、単にこちらの無知から生まれた偏見なのかもしれない。在日の人々の置かれた複雑な状況を知ることで、はじめて日本人は在日の人々の言葉を偏見なく受け取ることができるようになるということだろうか。

taro