劇場公開日 2022年5月13日

  • 予告編を見る

「互いを必要とする《愛の形》」流浪の月 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0互いを必要とする《愛の形》

2023年1月15日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

「ウチに来る?」
「うん、行く」
家に帰りたくない虐待されている少女を匿った青年が
犯罪者として、いつまでもいつまでも糾弾される。

文は世間から見れば少女を誘拐して監禁した犯罪者。
その文にどうしようもなく惹かれる更紗。
正しく理解するのは常識では無理・・・
更紗には差別する人に正しく説明する言葉が見当たらない

何故、更紗と文は、惹かれ合うのか?
それを解明する事がこの映画のコンセプトだとおもいます。
更紗と文が暮らした最初の2ヶ月
そこが全ての出発点でした。

映画では松坂桃李も広瀬すずも、とても良かったと思います。
最高のキャスティングだし、そして2人は入魂の演技でした。

原作を読んだひとりとしてちょっと言いたいのは、
更紗が両親と別れるまでの生い立ち。
この時代が更紗にとってのゴールデンタイムだった事。
父親が突然病死して、自由人の母親は恋人の元へ・・
更紗を捨てて出ていきます。
原作では実に細やかな描写・・・
更紗は、自由奔放な母親と、母親を深く愛する父親の幸福で
ユニークな3人家族で育っています。
母親は朝・昼・夜、気にせずに飲酒したり、
好きなときだけ料理したり、
3人(両親と更紗)で、大人向けの映画を観たり、
親がしょっちゅうキスしていたり、
何度も出てくるのだけど、《夕飯がアイスクリーム》だったり、
映画を観る日の夕食は《宅配ピザ、ポップコーン、アイスクリーム》
だったり、

それに対して文は母親から育児書通りの、とても堅苦しい家庭。
炭酸入り飲料は健康に悪いのでダメ、
紅茶は10歳まで薄めて飲む、
ラーメン店は不潔で健康に悪い、
だから入った事がない、
事細かに規律に縛られて育った。

そして更紗もまた、預けられた叔母の家で、
個性を歪められた上に、
いとこで中2の孝弘から性的虐待を受けて、
更紗の心はもういっぱいいっぱいで、
限界でした。

だから更紗にとって文との2ヶ月は、目眩く解放と自由復活の
日々だった。

この記憶が2人を決定的に結びつけている。

だから15年後に再会した更紗は、
亮くん(横浜流星)との同棲生活によって、
無理を強いられていて、
文との縛られなかった、
更紗がありのままでいられた時間、
それを思い出してしまったのだと思う。

映画はこの2人の精神的な《もたれ合いと惹かれ合う必要性》
これをもう少し繊細に多くの時間をかけて描いていたら、
より説得力が増した、
そう思うのです。

それにしても世間は、
文を《幼女を誘拐監禁した加害者》として、常に糾弾し続けるし、
更紗は《ロリコンに誘拐監禁されて、何をされたのか?》
好奇の視線に晒され続ける。
決して忘れてはくれないのです。

ラストシーンで文は、
どうしても触れられなかった自分の身体の秘蜜を晒(さら)け出します。
とてもショッキングなシーンです。

更紗になら言えた。
更紗なら、そんな文を受け入れる。

更紗と文の結びつきは、精神的なもの。

本を読んだときにはキャスティングが決定していたので、
文は松坂桃李さん、
更紗は広瀬すずさん、
亮は横浜流星さんで、
当て読みしてました。
(流星さんのDVはショックでした。DVもある意味で心の傷?
(そして母親に捨てられた喪失感・・・が、如何に人を歪めるのか?)
亮の妨害工作が卑劣でした。

文と更紗は一緒に居られれば、それだけで幸せ、

この映画(原作)のコンセプトは、
世間的には《ロリコンに誘拐監禁された少女》と
《加害者のロリコン青年》が何故強く惹かれ合い
《互いを必要としたか?》
それに尽きると思います。
それを解明した映画だと思います。

そして答えは映画(映像&音楽)の中に示されています。
文体が映像になる。
湖水に浮かぶ文、
膝を抱えてただ更紗を眺めてる文、
マンション隣のベランダ越しの会話、
窓辺で揺れるレースのカーテン、

何気ないシーンがとても良かったです。

琥珀糖
R41さんのコメント
2024年5月19日

おはようございます。
琥珀糖さんの心温まるコメント、ありがとうございます。私に関して言えば、妄想好きなだけです。
確かにこの作品は、作家さんの実体験が込められていることで、リアル感がでていましたね。
いわれのない周囲からの攻撃ほど人を傷つけるものはないでしょう。
この作品には、頭からの決め付け(レッテル)に対する「無実」の事実と、それを言いたくても言えない個人的悩みである身体的特徴というコンプレックスを描き、同時にそれを批判しないという考え方があるように思います。
批判しないで去る。これを象徴しているのが流浪ということなのでしょう。
ただ、映画の中のサラサに視点を集中しすぎていて、フミにいまひとつ焦点を当てていなかったのが悔やまれます。
またいつか見てみようと思いました。
今後ともよろしくお願いいたします。

R41
りかさんのコメント
2023年10月26日

原作をお読みなのですね。
更紗の両親とのこと教えていただきありがとうございました😊
本作で広瀬すずさんと横浜流星さん、いいなぁと思いました。
松坂桃李さんはずっと以前から。

樹木希林さんの娘さんは、私は、いいです。

りか
ごーるどとまとさんのコメント
2023年2月13日

琥珀糖さん、いつもありがとうございます。たくさんの作品を見られていて、丁寧なレビューを書かれていて日々感服しております。
私はレビューを溜めてしまうので書く頃にはすでにかなり忘れていてざっくりしか残せてないです(^^;;

ごーるどとまと
ゆり。さんのコメント
2023年1月20日

更紗に大胆な所があるのは、生い立ちによるものだったんですね。広瀬すずさんは原作を読んで演技に臨まれたんでしょうね。もしかしたら子役の方も。

ゆり。
いぱねまさんのコメント
2023年1月18日

私の言葉少ない感想に、丁寧に返信頂き誠にありがとうございます と同時に私のボキャブラリーの引出の少なさに恥ずかしさを噛みしめております
今にして思えば、私の内容があまり意味を成さない事に思えるようになりました あそこで『マイクロペ○ス』の表現は不必要だったかもしれません 例えそれを表現していても、それが=エストロゲンの先天的不十分=だから幼女に対する性欲ではない という図式を導き出すことは不可能だからです 敢えて出さないことで、調べるきっかけになるのではと思った次第です

いぱねま
みかずきさんのコメント
2023年1月16日

共感ありがとうございます。

繊細、緻密で、作品愛が感じられるレビューですね。

原作と映画の比較。
レビューで取り上げられることが多いテーマですね。
原作を最大尊重する作品、原作に大胆な解釈を加える作品。
原作と映画は別物なので、どちらも有りだと思います。

原作のないオリジナル脚本作品がもっと増えて欲しいです。

では、また共感作で。

ー以上ー

みかずき
caduceusさんのコメント
2023年1月16日

いつも温かいレビューですね。私も批判はやめた方がいいかもしれませんw
不幸を描くのはいいのですが、それで作品のコクのようなものを作ろうとすると、観る側は気持ちが悪くなってしまいます。
ちょっと"つなぎ合わせ"た感のある映画でした。

caduceus
CBさんのコメント
2023年1月16日

kさんのレビューによると、原作と映画はストーリーは同じですが、描く上での視点は大きく異なっていたようです。原作読むと、また別の楽しみ方があるのでしょうね。

CB
CBさんのコメント
2023年1月16日

監督の、「一般人の無理解への、怒り」というか啓蒙が奔り出るような映画でした。自分も好きです。

CB
いぱねまさんのコメント
2023年1月15日

大変素晴らしい時評でした 参考になりました

いぱねま