「なんでも暴けば良いってもんじゃない」流浪の月 @花/王様のねこさんの映画レビュー(感想・評価)
なんでも暴けば良いってもんじゃない
誰も誰かになれる訳でもないのに
よくも人の心情を語れるなと感心してしまう昨今
原作は未読ですが、李相日監督が好きで自分に合っている映画だろうなと期待して鑑賞。
予告では成人した大人が幼少期に誘拐された犯人と付き合おうと、分別ある年齢に達しているのだから外野がとやかく言ってんじゃねぇよって視点で観ていました。
ストーリーは王道を地道に進むのですが、
演技がうまい
子役がうまい
演出がうまい
日常の何気ないやりとりだったり
会話だったり
仕草だったり
忘れられない人との時間の流れを繊細に切り取る映像、演出が素晴らしい。
役者さんの表情や血管、手の見せ方まで、顔が見えなくても感情が読み取れる演出が心に刺さって、中盤から大号泣でした。
思春期だからこそ成長する心と体のギャップに悩んだり苦しんだりする。
自分が傷ついたんだと自覚することは、自分がされた行為を認めることになるので、誰にも言えないし言いたくない。
頼むから、分かったフリをしないでくれ。
頼むから、可哀想な者として扱わないでくれ。
そっとそこに在ることを赦して欲しいだけなのに。
どうして放っておいて欲しい時には、罵詈雑言で捲し立てるのか。
どうして救って欲しい時には目も合わせてくれないのか。
自分と向き合いたかった。
家族に気づいて欲しかった。
自分は傷ついている、苦しんでいるぞって声を上げて泣き叫んでやりたかった。
が、出来なかった。
自分を守るために、自分の秘密や痛みを誰かと繋がっていくことがどんなに難しいことか。
身を引き裂かれる恥辱を味わうことか。
それは当事者でしか感じ取ることができないし、当事者だけが抱えている苦しみなのだと、映像から想像できるのが凄い。
男女の仲を描く作品は多かれど、この作品は恋愛映画ではくくれないと思う。
恋焦がれる気持ちは確かに存在するけど、肉体的にも精神的にもプラトニックな関係なのだと思う。
思春期に体が変化して、自分を見る異性の視線が変わる気持ち悪さや、性の対象となってしまった自身が生きていくために身につけた処世術だったり。
さらさの言う、
何事も諦めた方が楽じゃないですか?
って言葉に集約されている気がする。
他人に自分を分かれとも、他人を深く理解したいとも思っていない。
適当な距離感で付き合いたいのに、どうして踏み込んで荒らそうとするのだろう。
手を繋いで眠るだけで幸福で満たされるなら、それが愛だろうが恋だろうがプラトニックだろうが名前なんてどうでも良くて、ただ一緒に居たいから一緒に居る存在なだけ。
序盤ではフミの後を黙々とつけて、自宅を把握するさらさの行動がストーカーに見えて、え?っと思った。
中盤では今彼にレイプされそうになり、自分がぶん殴ってまで逃げた相手とまともに会話したり、あまつさえ自宅に一人で上がるなんて自殺行為は普通の感覚の女性ならしないだろうなと思った。
女性はどう頑張っても受け入れる側になるので、一度無理だと感じた相手は、生理的に受け付けないだろうな、と。
生理的に無理になってしまったら、キスも気持ち悪いし、同じ空気を吸っていることすら気持ち悪く感じるだろうな、と。
一見、相手に優しい言葉を投げかけているようで、ありがとうは今彼にトドメを刺す言葉だったんだろう。
りょうちゃんが救急車に乗り込む時に
もう良いからって手を離してくれたのがよかった。
相手に執着していても、心の無い関係で相手を縛り続けるのは呪いだ。
手放せたことが救いだったと思う。
フミも今彼女のタニとの別れの時に、嫌われる方を選んだのが良かった。
話せる、繋がれる相手じゃ無いと分かっていたから、相手を被害者にしてあげることができた。
終盤でサラサに対しては、嫌われても自分を曝け出す方を選んだ。
サラサがフミと繋がっていたかったように、フミもサラサと繋がっていたかったんだなと思えて泣けてしまった。
自分を理解してくれる存在
許容してくれる存在は大きい
在るが儘を良しとしてくれる存在は(本来で有れば)親や家族だけど、自分を大切にしてくれない血のつながりは暴力でしか無い。
認知しないことが既に呪いだ。
同じ言葉を話しているのに、まるで自分が透明人間にでもなった気分だ。
そんな中で、言葉の通じる相手をお互いが見つけた安心感や嬉しさが溢れている時間がとても綺麗で儚い。
自分が望む形で、望む人に愛される幸福があったように思う。
キャストは広瀬すずと松坂桃李のダブル主演。
いつもは広瀬すずが相手役を喰ってしまうので、今回も松坂桃李を心配していたがとんでもない。
表情やふとした仕草がとてつもなくうまい。
二人とも表情で演技をする。
その些細な演技をここだって切り取ってカメラに収めるのが凄すぎる。
二人の演技が本当に素晴らしい。
サラサの小役時代を演じた白鳥玉季の演技も抜群に良い。
研究されたのか、広瀬すずの仕草や表情の作り方を熟知して再現している。
そうそう!この口の感じ、この笑顔の感じ!
と、幼い頃に違和感がない。
キャスティングがドンピシャでハマっている。
アンティーク店の柄本明もいい味出してる。
飄々とした古物商感が出ている。
人の縁とは巡るもので、物は縁を繋ぐ媒体であり記憶の貯蔵庫の様に思える。
フミの母親役の樹木希林さんの娘、内田也哉子がアクセントになっている。
お母様も存在感のある女優さんでしたが、流石血は争えませんね。短い出演でセリフも少ないのに印象に残るんですよ。不思議です。
美しい思い出も
繰り返し苛まれる悪夢も
他人に伝えるのは至難の業です
だって体験していないことだから
体験したことのない出来事を追体験する。
映画と言う媒体で上映してこそ、当たり前を共感できる様に演出してこそ映画の価値があると思います。
刺さる人には刺さる。
共感できる層には刺さりまくって辛いです。
私は刺さりました。
上映日数も少なくなりましたが、映画館で観て損のない作品です。
ぜひ、劇場でご覧ください。
NOBUさん
松坂桃李さんの減量は凄まじかったと思いますよね。あの細さ!ストイックな役作りをされたんだと感服いたします。
広瀬すずさんの演じた文は思春期の女の子が女性へと肉体的に変化をする時期で、異性から性の対象に見られる気持ち悪さや変化を受け入れるしかない寂しさと言うかやるせなさが表れていて素晴らしかったと思います。
横浜流星さんも殻を破りましたよね
今晩は
素敵なレビュー、拝読しました。
哀しき運命を背負った男を、松坂桃李さんが相当減量したと思われる中性的な姿で演じた所が凄いと思った映画でもあり、且つ世間的な類型的な男と彼が助けた女の子の見方と、助けられた女の子が感じていた男の善性を広瀬すずさんが、絶妙に演じていた作品でありました。
又、普通であれば嫌な男の哀しみを横浜流星さんが見事に演じた、作品だとも思いましたね。
重いテーマでありながら、見応えある作品だと、私も思いましたよ。
では、又。
すみません、お名前打ち間違えておりました💦
りあの様、レビュー拝見して共感するところがたくさんあり、フォローさせていただきました。
Twitterでもレビューイラストを描いたりしているので、よろしければご覧ください。
@りのあさん
今作へのコメントもありがとうございます。
そう!そうなんですよ!
樹木希林さんの空気を纏っていらっしゃって、物言わぬ悲しさやフミを否定する空気が素晴らしかったです。
役者の演技の光る作品だったと思います。
りあのさん
Free、先程レビュー上げさせていただきました。
そうなんですよ。身の安全を考えるなら最後に終の住処の周辺を実写で移すことの方がよっぽど危険だと思いました。
それと、この作品についてのレビューにもすごく共感しました。
広瀬すず、松坂桃李、白鳥玉季、素晴らしかったですね。内田也哉子も久しぶりに観たけど、お母さんの樹木希林に雰囲気が似てきましたね。嫌な母親役でしたが存在感ありました。
私にも刺さった作品でした。
@花/王様のねこさん
FLEEへのコメントありがとうございます。
レビューされてないようなので、別作品ですが、ここを借りたいと思います。
難しかったです。アニメにする理由は説明ありましたが、あの程度で身の安全???って思いました。
響く人には響くのかもしれませんが、そうだとしたら難しすぎですよね。
CBさん
横浜流星さんがこんな声を出せるのか!
表情は一瞬で手を離す画にカットが変わるのに、りょうちゃんがさらさから離れられたんだなと伝わったのでグッときて泣けてしまいました。
本当に愛してはいたんだな。
手離せて良かったと。