「性愛は喜びと苦しみを与える」流浪の月 Toshihikowさんの映画レビュー(感想・評価)
性愛は喜びと苦しみを与える
何も考えず楽しむ娯楽映画ではありません。主要な登場人物がそれぞれ心に闇をかかえているので、気持ちに余裕のない人は観ない方がよいです。
また、社会的に問題のある異常な状況を話の軸としているため、生理的な不快感や嫌悪感を感じる人も少なくないと思います。
しかし、私にとっては素晴らしい作品でした。密度の濃い映画鑑賞時間を過ごすことができました。
よかったところ。
ひとつは描かれているテーマ。
ロリコンの女子誘拐という、誰しも嫌悪感を感じる特異な事件が、この物語の中心にありますが、描かれているのはそこではなく、性愛という我々全員に共通する人生の課題だと感じました。
人には性愛が本能として遺伝子に組み込まれていて、誰しも逃れられません。
運よくその本能と上手につきあえる人もいますが、様々な事情で悩む人は少なくありません。人によっては絶望したり破滅的な行動に至ったりすることがあります。
しかしそれほど大事な問題であるにもかかわらず、社会的・文化的に性愛を語ることはタブー。恥ずかしいことなので、人は隠します。
この映画に登場する登場人物の悩みの原因は性愛です。誰にも救いを求めることができず、孤独で苦しい人生を送っています。それぞれの悩みにどこかしら思い当たるところがあり、共感できる部分、考えさせられるところがありました。
二つめは役者さんの演技。
特に広瀬すずさんの演技には目を見張るものがありました。最初の長いベッドシーンには賛否あるかと思いますが、あらゆるシーンで、主人公の心が表現できていたと思います。容姿が綺麗というだけでなく、人の繊細な心を表現できる素晴らしい女優さんだと感じました。
松坂桃李さんは最も難しい役どころだったと思います。人物のもつ空気感をスクリーンから感じました。
また横浜流星さんのクズ男っぷりも素晴らしい演技でした。予想できる範囲をだいぶ超えていたと思います。演技指導なのか、もともとの表現力なのか気になりました。
三つめは映像です。
状況を説明するための映像ではなく、観客の感情を動かす抒情的な映像づくりが丁寧に行われていて、撮影・編集の感性と努力を感じました。映画館の大きな画面で観るとよくわかりますね。
原作は未読ですが、そのうち読んでみようと思います。
今年の映画賞をたくさんとりそうですね。