「美味しい珈琲店の光と影」流浪の月 劇場の天使2さんの映画レビュー(感想・評価)
美味しい珈琲店の光と影
2020年本屋大賞を受賞した凪良ゆうのベストセラー小説ということでしたが、途中までは主人公たちの最悪の状態に向かうだけの行動やSNSや週刊誌を通じた世間の反応にイライラさせられっぱなしでした。「なんだこの映画は!」というのが途中までの感想でした。ところが終盤になって松坂桃李の演じる主人公の心の傷が明らかにあると一転。見事な傑作でした。ある事件に巻き込まれた少女が成長した姿を広瀬すず演じますが、彼女の心の傷は観客の前に早くから提示されます。
一方の松坂桃李の終盤に明らかになる秘密は、深く彼を傷つけ、何日も眠れぬ夜を過ごさせ、人生に絶望させていたのだということに気がつきました。なぜなら松阪桃李や広瀬すずの心の傷は筆者自身の心の傷と同じなのだと気づかされたからです。これまで真剣に向き合ってこなかった劣等感。神様だけがご存知の誰にも知られたくない秘密。他人事ではなく自分自身を見つめ直すきっかけとなる映画でした。それだけでも傑作に値します。
松坂桃李は骨董屋の2階で雰囲気のあるカフェを営んでいます。自家焙煎の一杯ずつ丁寧に入れるネルドリップのコーヒーは1杯650円らしいです。食べ物やお酒は出さない店で10席ほどの小さなスペースです。これでは経営はかなり厳しいはずなんだけれど…。映画は光と影を巧みに用いていますが、広瀬すずが初めてそのカフェのコーヒーを飲んだ時に顔がパッと明るくなります。ああ、美味しいコーヒーなんだと何故か安心させられました。
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