「人生の諦めの先に」流浪の月 よしくんさんの映画レビュー(感想・評価)
人生の諦めの先に
この映画のテーマの核心は「人生の諦めと苦悩」が根底にあると感じた。文(松坂桃李)の「死んでも知られたくない秘密」、これは週刊誌でどう報道されようが、身近にいた更紗(広瀬すず)にも知られたくなかった男性機能に問題があること。だから大人の女性とも付き合えない。あゆみ(多部未華子)が週刊誌の報道を見て、吐き気がした、こんな人と付き合ってたなんて、と文を全否定し、別れ際に一つだけ教えて「(ロリコン)だから私と一度もしなかったの?」と文に問いかけても、文は死んでも知られたくない核心には触れたくない。だから、あんな形で言うしかなかった哀しみ。
それは、育つ過程で母から欠陥品と扱われ続けたことも多分に人格に影響しているだろう。本当は文も母に受け入れられ、周りに受け入れられたかったはずだ。そんな生い立ちの彼が雨の公園で更紗に会う。悪戯する気なんて最初からない。年は少し離れていても、お互いの生い立ちから、初めて心が寛げるひと時だったのではないだろうか。
ポーの詩集を見て自分を癒す。更紗と別れさせられた15年、彼はよく生きたと思う。そして再会。既に大人の女性になった更紗、あの時の更紗と気づいても、もう過去のようには接することは出来ないと思ったのだろう。実家の離れから出てカフェで働いていても、彼は引きこもったままだった。
しかし更紗も父が死に母に捨てられ、預けられた叔母の家の息子に体を触られる嫌がらせに耐えられない気持ちでありながらも、それを「言えない」という心の蓋がある。それは、大人になり、亮と付き合い、求められても「私はセックスは嫌い」も言えない。
更紗も自分をわかってくれる人を求めていた。だから自分を好きになるひとなら、それが満たされると期待があったが「人は自分が見たいようにしか見ない」という事に気づく。
そして、更紗は大人になり再び文に会い、最初は文の幸せを祈りながらも、自分自身の2度目の救いに繋がっていった。それは、文にとっても同じで、ついに死んでも知られたくない自分の秘密を更紗にさらけ出せるまでになった。
魂の流浪、そこは二人それぞれにとって闇の中だったが、この長い期間の流浪を経て、二人の出会いは、闇の中に月明かりを照らすような、深い魂の出会いにまで高まったように見えた。