「 撮影監督の力は大きかった。風景は美しい。月のシンボル性も必要だっ...」流浪の月 えみりさんの映画レビュー(感想・評価)
撮影監督の力は大きかった。風景は美しい。月のシンボル性も必要だっ...
撮影監督の力は大きかった。風景は美しい。月のシンボル性も必要だったし。言葉のない暴力の世界、マイノリティの世界だけに、風景には頼ったと思う。それがなければ、邦画にありがちな、ただただ暴力的な世界。
正直あまりこういう世界は好きではない。性的マイノリティのことではなくて、DVや性的虐待の世界。被虐性が反復される世界。映画館で泣いていた人もいたので、反応する人もいたと思うが、私はもちろん泣けなかった。
すずさんは、四人姉妹の映画のときも、排除されるマイノリティの役をやっており、被虐性にさらされがちな設定が多いが、マゾヒズム的要素はそんなになく、むしろ、力強く素直だ。吉永小百合の位置と言ってもいい、純粋無垢性の方が強い。それが、この映画の力強さと純粋性になっている。
桃李さんは、もともと歪んだ役、露悪的な役とかも好きな人で、この映画ではそのマイノリティの独自性、孤独、引きこもり性は描いていたけど、もう少し、すずさんくらいノーマルな人や演技の方が良かった気もする。優しさや、特に強く手を握りしめるシーンなどはよかったのだけど。純粋さは桃李さん、できるんだけど、いつもひどく病的になっちゃう。ここは、存在自体は特異でももう少しノーマルな感じがほしかった。
子役の女の子は、この意味でとてもよかった。純粋さと力。すずさんと面影があり、その点でもいい配役だった。
流星くんも頑張ったと思う。多部ちゃんはやはり純粋性の象徴としてよかった。ちょっと少女っぽさもあるし。
でも、流星くんがすずちゃんに絡むシーンは、そもそもダメなやつ設定だからあんなものかもしれないけど、いまいちだし。多部ちゃんの絡みに至っては全然演技指導がひどい。セックスシーンにやたら音を入れるのもAVみたいで古い。
あとは、母親のエピソードとその描写がよく、内田の演技がすごく良かった。排除の要素が描けた点で、この映画は成功している。職場の人たちも本当に親身な人はいないし、日本社会の酷さが描けている。でも、その分、実際の主人公たちの人格の内在的な描き方は不十分。
世間と母親の暴力性に対して解離的になってる感じはそれはそれとしてありと思った。少年院に行くよりは年取ってる感だったかな。孤狼の血も、解離的演技だったな、思い返せば。
新しいと感じたのは、アセクの要素があるからか。普通はセックス依存症と裏表で、セックス依存症もセックスが本当に好きかわからない要素はあるけど、この作品は、その点で愛を示唆している要素はあり。