日本語劇場版 サンダーバード55 GOGO : 特集
庵野秀明、円谷英二らが愛し、憧れたSF特撮が
樋口真嗣の構成で半世紀ぶり“奇跡”の完全新作公開!
日本の特撮・SFに多大な影響を与えた傑作に刮目せよ
今こそ、「サンダーバード」――。世界中で愛され続けてきた特撮シリーズの“奇跡の日本語劇場版”「サンダーバード55 GOGO」が、1月7日から全国公開される。
「サンダーバード」って、知ってる――? そう聞かれたら、あなたはこう答えるかも知れない。ビジュアルは知っている。NHKで放送していたのを見たことはある。テーマソングは聴いたことがある……。それなりの頻度で映画館に足を運ぶ映画ファンであっても、きちんと見たことはないという人も多いのでは?
それは、あなたの映画人生における大きな機会損失だと、声を大にして言いたい! 「新世紀エヴァンゲリオン」などの庵野秀明が強く魅了され、人生の節目となった偉大なるSF人形劇――それが「サンダーバード」なのだ。日本放送から55年、「ウルトラセブン」「2001年宇宙の旅」「スター・ウォーズ」シリーズなど数多くの名作がこの「サンダーバード」に影響を受け、製作されてきた。
1月7日より公開となる日本語劇場版「サンダーバード55 GOGO」を見れば「あれ? この構図って……」「あの映画のデザインの元ネタってもしかして……」と、約90分の上映の間、あなたの“映画脳”が刺激されること間違いなし! まさに“90分のワクワク体験”が待っているのだ。
ここでは【入門編】として、「サンダーバード」の基本情報から後世に与えた影響まで映像を交えて徹底解説。これまで“守備範囲外”と思っていた「サンダーバード」が、実は“あなたにドンピシャの作品”だったことがわかるはず!
円谷英二も庵野秀明もみんな、「サンダーバード」が
好きだった――後世に刻んだ多大な影響を振り返る
日本の映画ファンと「サンダーバード」をつなぐ“最重要人物”としてまず紹介したいのが、「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズや「シン・ゴジラ」などで知られる庵野秀明監督である。
子どもの頃から「サンダーバード」および、同作の生みの親であるジェリー・アンダーソンの製作総指揮によるSF特撮ドラマ「謎の円盤UFO」を熱心に見ていたと公言している庵野だが、そのつながりは“ただのファン”というだけではない。
1985年、当時25歳の庵野が、“プロとして初めての仕事”で関わった作品こそが、この「サンダーバード」だったのだ。同作のダイジェスト版「ザ・コンプリート・サンダーバード」の編集に参加していた――つまり人生の節目に寄り添っている、大切な作品だということだ。
庵野は今回の新作、日本語劇場版「サンダーバード55 GOGO」の公開にあたり“『サンダーバード』等ITC作品ファン”として「当時の映像の再現に徹底的に固執する制作コンセプトに、オリジナルに対する半端ない敬愛を感じ、素直に痺れます」とコメントを寄せている。
実際、今回の日本語劇場版「サンダーバード55 GOGO」を見てもらえば、様々なメカや制服のデザイン、地下の秘密基地、カメラワークや構図、カット割りなど、いたるところで「ヱヴァンゲリヲン」シリーズをはじめとする庵野作品が同作から受けている影響を感じることができるはずだ。
また、庵野の“盟友”である樋口真嗣(「新世紀エヴァンゲリオン」「シン・ウルトラマン」など)以前より「サンダーバード」愛を公言しているひとり。今回、日本で公開となる「サンダーバード55 GOGO」は、「サンダーバード50周年記念エピソード」としてイギリス本国でオリジナルの撮影手法を完全再現して制作された新作3話を、樋口が構成を担当してエピソードはそのままに日本独自のイントロダクション、各話間、カーテンコールを制作し、1本の劇場版作品としたものである。
さらに、その影響は映像作品のみにとどまらない。「メタルギア」シリーズなどで知られる世界的ゲームクリエイターの小島秀夫も「サンダーバード」に影響を受けており、今回の映画について「『サンダーバード』は僕を形作る血肉となった特別な存在。実写やCGでのリメイクもあったが、やはりあの“スーパーマリオネーション”でなければならない。今回のクラウドファンディングによる国際救助隊の再結成は、まさしく僕の観たかった『サンダーバード』そのものである。公開までカウントダウンするしかない」と愛のあふれるコメントを寄せている。
「エヴァンゲリオン」シリーズや「シン・ゴジラ」、「スター・ウォーズ」シリーズを繰り返し観たという映画ファンよ! これら作品の“源流”と言える「サンダーバード」を見ずにいられるか?
WHAT′s サンダーバード?ひと目でわかる【入門編】
メカから人形の動きまで徹底解説!トリビアも紹介
ここでは動画で、「サンダーバード」の何がどうすごいのか、わかりやすく紹介していく。
●3分でわかる「サンダーバード」<入門編> スーパーマリオネーションのすごさとは?
英国TV界の名匠ジェリー・アンダーソンによるSF特撮人形劇。電磁式部品などを取り入れて、人間的な表情をリアルに表現することができるようになった精巧な人形を操演師(パペティアン)が巧みに動かす“スーパーマリオネーション”と呼ばれる撮影技法を取り入れ、実写さながらのセットと組み合わせて迫力ある映像を創出、世界的な人気を博した。
物語は世界的大富豪ジェフ・トレーシーが設立した「国際救助隊」(隊員はジェフの5人の息子ら)が、最新鋭の科学技術で開発されたスーパーメカ・サンダーバードを駆使して、世界中で起きた災害や事故、犯罪による危機に立ち向かうというもの。
「5」「4」「3」……というカウントダウンや勇ましいマーチ調のテーマソングもおなじみ。また、女性諜報員のペネロープの日本語吹替を黒柳徹子が担当していたが、今回の新作では、かつてドラマ「トットてれび」で黒柳徹子役を演じたこともある女優・満島ひかりが、同役ペネロープの吹替を引き継いでいる。
●<メカ解説編>輸送に補給、水陸両用機から宇宙ステーションまで! 多彩なスーパーメカに酔いしれろ!
こちらの特別映像では、本作に登場する多彩なメカを紹介! マッハ20の超音速ロケット(サンダーバード1号)に救急メカを運ぶ大型輸送機(サンダーバード2号)、宇宙空間での救助を行うロケット(サンダーバード3号)、水中ミサイルなどを搭載した水陸両用機(サンダーバード4号)、地球からの救難信号をキャッチする宇宙ステーション(サンダーバード5号)など、55年前に考えられたとは思えないほどのスケール感と緻密な設定に驚かされる。
さらにペネロープが乗る、オシャレなピンク色のロールスロイスの恐るべき機能性も明らかに! このあたり「キングスマン」シリーズなどガジェット好きの映画ファンであれば心くすぐられること間違いなし。各メカのデザイン性の高さもぜひ注目してほしい。
●構成担当・樋口真嗣が語る新作「サンダーバード」の本気度のすさまじさ!
ここでは、今回の日本版の構成を担当した樋口真嗣がこの新作のすごさについて語っている。樋口は、新作でありながら過去の撮影技法を徹底的に取り入れ、人の手によって緻密に作り上げられた本作を絶賛。「昔、撮ったようにしか見えなかった。着実に過去と同じ見せ方、演出で見せているのが、むしろカッコいい」と称える。
さらに樋口は、子どもの頃に本作を見ながら心に刻まれた大きな影響についても言及。超人的なスーパーパワーを持った人間ではなく、“普通”の人間が高性能のメカを操り活躍する姿に「自分たちもできるんじゃないか?」と感じたと語り、「乗り物込みで、憧れていた」とか明かし、今回の映画に関わることができた喜びも口にしている。
なお、↑こちらの映像では実際のスタジオで操演師たちが人形やメカを動かしている様子など、貴重な制作の様子も見ることができる!
【レビュー】CG全盛の時代にむしろ「新しい」!
職人芸と映画愛にあふれた傑作を、細部まで見逃すな
ここからは、実際に鑑賞したレビューを掲載していこう。
最初に告白すると、筆者もこの特集に目を通している多くの読者と同じように「映画は好きだけど、『サンダーバード』の存在は“知っている”くらいで……」という層の人間である。
だが、「仕事だから」と実際に作品を観て、まず何よりも心の中にわき上がってきたのは、映画に本気で携わるスタッフたちの緻密で巧みな仕事ぶりへの驚愕と敬意、そしてこの作品に出合ったことへの感謝の思いだった。
●これが“歴史的傑作の凄み”かッ! 映像世界がこれほど“斬新”なことに驚き
まばたきや口の動き、ちょっとしたリアクションまでリアルに表現しているスーパーマリオネーションの素晴らしさに加えて、なによりサンダーバード1号から5号をはじめとするメカのデザインのかっこよさ! これは時代の最先端を追うのではなく、伝統が根付くヨーロッパ、英国らしい、時を経ても決して色あせることのない普遍性に重きを置いたデザインセンスゆえのものだろう。
さらに、丁寧に緻密に作りこまれたビルや背景の美術セットのすさまじさ! メインの登場人物やメカをよそに、ついつい奥行きのある背景や美しいセットが気になり、そちらに視線を走らせてしまうシーンが数多く登場する。
そして「サンダーバード」初心者としては、樋口真嗣監督による構成が非常に優しさと丁寧さを感じることができて嬉しい。特に冒頭に「サンダーバード」とは何たるかを説明する紹介動画を挿入してくれているのが、ありがたい。
●日本語キャストも素晴らしすぎるッ! 満島ひかりに要注目!
もうひとつ、言及しておきたいのが、日本語吹き替え版のキャスト陣のレベルの高さ! さすがは「サンダーバード」を日本に紹介したことで礎を築き、いまも数々の洋画の吹替を手がけている東北新社の制作・配給と言うべきか。過去の「サンダーバード」作品にも参加した経験を持つ大塚芳忠に、ベテラン井上和彦、さらに森川智之、日野聡、櫻井孝宏、江口拓也、堀内賢雄、立木文彦ら実力派が顔をそろえている。
また過去に黒柳徹子が演じたことで知られるペネロープを、ドラマで黒柳役を演じた経験を持つ満島ひかりが演じているが、そんな“話題性”を超越した素晴らしさを見せてくれている。地上から数センチ、浮いたような不思議な雰囲気を漂わせるペネロープのキャラクターを巧みに表現しており、見事に黒柳からペネロープという大役を引き継いだ。
CG全盛の現代、過去の名作が3DCGとして“よみがえる”ことも多いが、本作はそうした手法を取らず、徹底的に昔ながらの制作手法を大事にして新作を作り上げた。つるりとした“キレイな”映像を目にすることに慣れたいま、リアルな質感と奥行き、重厚さを感じさせる「サンダーバード」の世界はデザイン性に優れ、スタイリッシュで目新しささえ感じさせてくれる。
歌舞伎や文楽がいまなお多くの人々に愛され、廃れることがないように、CG全盛の時代にあってもこのスーパーマリオネーションが色あせることはない。“職人芸”の積み重ねによる美しきSF劇をぜひ堪能してほしい。
ちなみに1月7日の劇場公開の翌8日からは、オンライン上映もスタートする。