「予想通りの展開に併走する違和感が炸裂するクライマックスに呆然とさせられる痛烈な風刺に満ちた『裏切りのゲーム』」スイング・ステート よねさんの映画レビュー(感想・評価)
予想通りの展開に併走する違和感が炸裂するクライマックスに呆然とさせられる痛烈な風刺に満ちた『裏切りのゲーム』
1996年の大統領選で惜敗した民主党の選挙参謀ゲイリー・ズィマーはウィスコンシン州にある小さな町ディアラーケンで給付金の受給に身分証の提示を義務付けようとする町議会に乗り込んで異議を申し立てた退役軍人ヘイスティングス大佐のスピーチがYouTubeで話題になっていることを知る。外国人労働者のために立ち上がった大佐の堂々としたスピーチに感銘を受けたゲイリーはスイング・ステート(激戦州)であるウィスコンシン州で民主党への支持層拡大のために大佐を町長選に出馬させることを思い立つ。大佐を口説き落とすために自らディアラーケンに乗り込んだゲイリーは前日にバーで食事した翌朝には町中がゲイリーのことを知っていて気軽に声をかけてくるフレンドリーさに圧倒される。大佐に直談判したゲイリーに立候補の条件として大佐が突き付けたのはゲイリー本人が選挙戦の指揮を取ること。ゲイリーは止むなく町に残り選挙戦の準備に取りかかるが、そんな民主党の秘策を察知した共和党の選挙参謀でゲイリーの宿敵フェイス・ブルースターは現職のブラウン町長を全力で支援することを決意する。突如現れたブラウン町長のビルボード広告を見たゲイリーはフェイスが乗り込んできたことを察知、無名の小さな町の町長選が次期大統領選の前哨戦として全米の注目を集めていく。
という感じでちょいちょい下品なシャレをブチ込みながら展開する共和党VS民主党の鼻血の一滴も出ない熾烈な戦いを描いたポリティカルコメディ。当然スクリーンを見つめている私はある程度結末を予想していてディアラーケンの町に暮らす人々の言動に見え隠れする違和感が気になりつつも物語もそのゴールに向けて軽快に進行していきますが、いよいよ終盤になるとその違和感が腫れモノのように大きくなってクライマックスでポーンと弾けて終幕・・・えーっ、そういう結末!?
これはどういうこと?と首を捻りながらエンドロールに被さるオマケを眺めていてようやく事態が飲み込めました。納得した時にエンドロールが終わってましたという映画は初めてです。軽快なコメディだと思って油断していると米国における選挙制度にまつわるトリビアや前述の違和感を見過ごすと物語を見失って肩透かしを食らってしまうので集中力を要する少々ハードルが高い作品。劇中でボブ・シーガー&ザ・シルバー・ブレット・バンドの『裏切りのゲーム』が流れるのですが、この歌の歌詞が本作の核となっていることに大いに驚かされました。
ゲイリーとフェイスを演じるスティーブ・カレルとローズ・バーンの丁々発止の掛け合いは抜群の安定感、大佐を演じるクリス・クーパーの圧倒的な存在感が印象的ですが、何よりもサプライズだったのは大佐の娘ダイアナを演じるマッケンジー・デイヴィスの美しさ、思わず息を呑みました、その登場シーンそのものはエゲツないんですけども。しかしブラッド・ピット製作総指揮の作品にはホントにハズレがない、アッパレです。
そしてこういう社会風刺の効いた辛口コメディを衆院選の前に封切った配給会社のウィットにも敬意を表したいです。制度は全く異なるものの本作の背景にある深刻な問題は国を問わず普遍的なもの、そこに光を当てたことは広く評価されて欲しいです。