牛首村 : インタビュー
Koki,が語る女優業への情熱と覚悟 前向きな姿勢を学んだ家族への謝意
人気漫画が原作というわけでもない、ホラー映画が公開前どころか撮影前の段階からこんなにも大きなニュースになることなど普通はあり得ない。その“普通”ではない状況を生み出したのは、この映画「牛首村」で女優デビューを果たしたKoki,(「o」の上に「‐」が正式表記)の存在に他ならない。(取材・文・写真/黒豆直樹)
試しに「Koki,」という名を検索エンジンに入れてみると、本作「牛首村」に関するものだけでも膨大な数のニュースがヒットする。デビュー前、つまり、大多数の人々が彼女の演技を見たことがないのにもかかわらず、さまざまな声が洪水のようにあふれるこの状況を、19歳の新人女優はどう受け止めているのだろうか。そんな問いに、Koki,は柔らかい笑みを浮かべてこう語る。
「どんなことも、自分はポジティブに受け止めることを大切にしています。プレッシャーもそれをネガティブに考えるのではなく、誰かが自分に期待してくださっていると考えるようにしているし、その期待に応えたいという気持ちのほうが大きいです」。
その表情に悲壮感はない。いつか、この時が来るのをずっと前からわかっていた――終始、そんな“覚悟”と“強さ”を感じさせつつ、作品への思い、女優という仕事への情熱を語ってくれた。
「呪怨」シリーズでその名を世界に轟かせたJホラーの旗手・清水崇監督のオリジナル脚本による本作。ある心霊動画の中に自分そっくりの少女を見つけた女子高生の奏音(かのん)が、動画が撮影された坪野鉱泉(富山県)を訪れ、そこで妹・詩音(しおん)の存在やその地で伝承される“牛首村”の風習を知り、奇妙な出来事に巻き込まれていくさまを描く。
「なぜデビュー作にホラー映画?」。これはKoki,が「牛首村」に主演すると発表された当時、多くの人が抱いた思いではないだろうか。ラブストーリーでもなく、文芸作品でもなく、ホラー作品(ちなみに彼女自身「ホラー映画は怖くてひとりじゃ観られません。私と同じように怖いのが苦手な人は、ぜひご家族やお友達と一緒に映画館に足を運んでほしいです!」と語っている)。その理由として、彼女は純粋に脚本の面白さやドラマ性に惹かれたからだと明かす。
「最初にこのお話をいただいて、仮台本を読ませていただいたんですが、ストーリーに魅了されて『早く読み進めたい!』『結末を知りたい!』という思いになりました。じわじわと迫ってくる恐怖もあったんですが、加えて人間関係の描かれ方も魅力的で、家族や友情、絆が描かれていて、すごく楽しめる作品だなと思いました」。
今回、彼女は1人2役で、奏音と詩音という、育ってきた環境も性格も全く異なる姉妹を演じている。現場では奏音の衣装のまま、詩音のシーンのリハーサルに臨まなくてはならないこともあって「役柄というものが、自分が着る衣装にもすごく影響されるというのを実感しました」とも。監督と話し合いながら、シーンによっては何度もテイクを重ねることもあったが、それでも「難しさは常に感じていましたが、不思議と『大変だった』とか『つらかった』というシーンはひとつもなかった」と明かす。
「2役を演じるということで大事にしたのは、奏音と詩音の“違い”を出すことを意識するのではなく、それぞれ別々の2人の人物を演じるということ。その中で、共通点を見つけるようにして、奏音に関しては『姉妹の絆を何があっても守り抜きたい』という思いを持っているところが私と同じだなと思いました。あとは、周りから表面的にはちょっと冷たいイメージで見えるかもしれないけど(苦笑)、実は中身は結構、感情的で情熱的なところも似ています。詩音に関しては、姉が大好きで『お姉ちゃんに頼りたい!』という感じがすごく近いなと思いました」
ホラーの巨匠・清水崇から恐怖シーンに関して特に言われたのが「緊迫した空気を持続させること」の重要性。
「監督がおっしゃったのは、シーンの緊張感、恐怖感をいかに保つか? ということ。ささいな目の動きや口の動き、表情で、(観客の)緊張感が途切れてしまうということで、その部分での集中力はすごく意識しました。これまでやってきたモデルのお仕事でも、もちろん集中力は必要ですが、女優の仕事では必要とされる集中力の長さがモデルとは全然違うんですよね。そこは難しかったですし、本番にピークを持っていくというのもすごくチャレンジングでした」。
2018年、15歳でファッション雑誌「ELLE japon」の表紙を務め、モデルデビューを果たしたKoki,だが「女優になりたい」という思いはそれよりもずっと前、幼少期から抱いていた。
「小さい頃からいろんな映画を観るのが好きで、父の出演する映画も観ていましたので、演じることへの憧れはずっと持っていました」
ジャンルや国を問わず、さまざまな映画を観るというKoki,だが「特に強いメッセージ性を持っている映画、感所が揺さぶられる作品が好き」とのこと。憧れの存在として挙げたのは、3人のハリウッドの名優。
「ジュリア・ロバーツさん、シャーリーズ・セロンさん、アル・パチーノさんの3人です。作品で言うと、ジュリア・ロバーツさんは『マグノリアの花たち』、アル・パチーノさんは『セント・オブ・ウーマン 夢の香り』が大好きです。シャーリーズ・セロンさんは、作品ごとに全く違う人物になり切るところが大好きで、どれか1本を挙げることはできないですが、憧れの存在です」
今回、こうした憧れの存在と同じ映画の世界に足を踏み入れて実際に演技をし、映画づくりの現場を見たことで、改めて演技の仕事の面白さ、奥深さを感じたという。
「現場にいて、スタッフのみなさんの熱量に驚かされました。炎天下の中でカメラやマイクを持っていて、日焼けで真っ黒になっている方もいて、ひとつの作品を力を合わせて作ろうとする情熱に感動しましたし、すごく素敵だなと思いました。撮影ですごく印象に残っているのが、駅のホームでの奏音と蓮(萩原利久)と将太(高橋文哉)の3人のシーンで、予想していなかった大荒れの天気の中での演技になって、天候の力も借りながら自分の中の気持ちを引き出してもらって、奇跡が集まったシーンになったなと思います」。
いま、仕事に臨む上で、彼女が心のよりどころにしているものは何だろうか?
「常に心の中にある思いは、何事も100%以上の力を注いで頑張りつつ、それを楽しむこと。先ほど挙げた俳優さんたちの演技を見て、圧倒されて『本当に心を掴まれるってこういうことなんだ!』と感じたんですけど、私も同じように誰かの心を動かし、魅了できるようになりたいなと思っています」。
もうひとつ、仕事だけでなく彼女の人生の支えとなっているのが、このインタビュー中もごく自然な口調で言及された“家族”の存在だ。仕事に関する情報どころか、SNSの投稿に至るまでがニュースになる、まさに一挙手一投足が注目を浴びる状況の中で、どのように自分を保っているのか? そんな問いに対し、彼女からはこんな答えが返ってきた。
「やっぱり繰り返しになりますけど、いつも前向きな気持ちでいるというのを大切にしています。もともと、ポジティブな性格ですけど、それはそうやって育ててくれた母のおかげだなと思います。落ち込んでしまうことがないわけではないんですけど(苦笑)、そういう時も母や家族がグッと太陽の下、光のほうに引っ張り上げてくれる。そうやってまた上にのぼっていくんです」。