「サスペンスに舵切りすべきだった。」オールド 茂野翔さんの映画レビュー(感想・評価)
サスペンスに舵切りすべきだった。
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◎ 総評
奇妙だと感じることはあるが、怖い要素はない。
序盤の導入部分では、子供の言動がいちいち可愛らしいので、穏やかな気持ちでいられる。
極限状況下における起こり得る事態や人間心理など、ディテイルがよく考えられている点を高く評価したい。例えば、急激に成長した子供達が思春期を迎え、異性を意識するようになるシーンでは、子供から大人へ変化する過程で味わう気持ちの変化を的確な台詞で表現している。また、若さゆえの無謀さ・過ちから、性行為に及んでしまった結果、時間が急速に進む関係で短時間のうちに少女が妊娠する場面があったが、「こういう発想もあるな」と素直に驚嘆した。最後に年老いて忘れっぽくなった父母が波を眺めながら二人で語らうシーンも最もらしい、というか実際的に描写されている。場面が夜凪である点も心情描写に寄与しているのではないだろうか。こういった表現法を鑑みて、採点時に0.5ほど加点している。
ただ、物語としての面白さは、至って普通である。最終的なオチとして、ちびくろサンボの手紙から脱出のヒントを得た兄弟が、ホテルに滞在していた警察官に事の顛末を伝え、非人道的な治験を行なっていた製薬会社の構成員が逮捕される。「特殊な鉱石に取り囲まれたビーチでは、細胞が活性化され、普通では考えられない速度で老化する」という題材自体は非常に興味をそそられるために、簡単に思いつく風呂敷の閉じ方で、九仞の功を一簣に虧いた。無理に説明的なシーンを付け足す必要はなかったのではないかと感じる。それよりもむしろ、サスペンスに舵切りしていれば、今とは異なる形で魅力的な作品に仕上がったのではと思えてならない。
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