「高速で加齢、謎の浜辺。よくぞここを見つけてきたと感心した奇岩に囲まれたロケの海岸。」オールド 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
高速で加齢、謎の浜辺。よくぞここを見つけてきたと感心した奇岩に囲まれたロケの海岸。
M・ナイトーシャマランの監督作に多くの人が期待するのは、意表をつく設定や仕掛け、思いがけない感動といった「驚き」でしょう。
ときに「なんで?」と思う理解不能な作品も過去にはありました。でも前作「ミスター・ガラス」など、このところ快調です。この新作も、タイトルから意味深。見終わってなるほどそれで『オールド』なのかと納得しました。そしてシャラマン監督ならではの仕掛けられた設定に、唖然呆然としました。
何しろ今回は、猛スピードで時間が経過する浜辺に閉じ込められた人々の物語。つまり一生が一日で終わってしまうくらい高速で年を取ってしまうということなのです。そしてその美しいビーチから、誰も逃れることができないまま、瞬く間に寿命が尽きてしまうこと。無邪気にリゾート気分を楽しんでいたはずなのに、突然寿命が秒速でなくなっていくことを知ってからは、見ている方も怖くなってきましたい。でも怖さは同時に、怖いもの見なさでわくわくするものですね。だんだん座席から身を乗り出して画面に釘付けとなったのです。
たぶん最初に監督は、高速で歳をとるこのプロットを思いつき、次の展開で、何故そんなことが起こるのかという理由付けのところで、「なるほど」と思わせる展開をリアルティたっぷりに盛り込んでいったのはところはさすがというしかありません。そのアディアマンぶりには脱帽しました。
そして今回の舞台は、シャラマン監督のこれまでとちがってビジュアル面でおおきく違っていました。青い海に明るい太陽に包まれたシークレットピーチが舞台という光景は、暗い室内が中心だったこれまでの彼の作品とは、趣が異なります。そしてもう一つ問題だったことは、シャラマン監督は大の飛行機嫌いだったのです。よくぞここを見つけてきたと感心した奇岩に囲まれたロケの海岸は、ドミニカ共和国にありました。本来ならそこは大嫌いな飛行機でないと行けない距離のはずです。それでもこの映画をつくることになったのは、彼の3人の娘たちが、この映画の原作であるグラフィックノベルの「Sandcastle」をプレゼントしてくれたからだったそうです。シャラマン監督も親バカなんですね(^^ゞ
舞台は、南国気分の高級リゾートホテル。ガイ(ガエルーガルシアーペルナル)と、プリスカ(ヴィッキー・クリープス)のカッパ夫妻は、近々に健康問題で離婚つもりでいました。家族の最後の記念として、トレント(6歳当時:ノーラン・リヴァー)とマドックス幼い2人の子供(11歳当時:アレクサ・スウィントン)を連れて休暇をとり、人里離れた美しいビーチへのリゾート旅行を計画したのです。
リゾートに到着後、支配人からプライベートビーチに行きませんかとに勧められます。そこは外界から隔絶された、選ばれた数組だけが行ける場所。特別感を味わっていると異常事態が相次いでおこるのです。
そこでは高速で子供は成長、大人は老化。さっきまで少女だった女の子が、直ぐ少女となり、トレントと初体験して、妊娠してしまうという早さなんです。だからといって
逃げようとしても、ピーチを包む強力な磁場の力で失神してしまいます。海からの脱出を目指した人は、溺死してしまいました。
結局逃げようとしても方法が見つからないなかで、どうやって秒速でなくなっていく寿命が尽きる前に脱出するのかできるのか。残された家族たちはいろいろ試そうとしてます。その中で、そもそもなぜ招かれたのかについても次第に疑問になっていきます。山の上には、家族たちを監視するかのような人影が…。
。 あぜんとするような体の変容と意外な内的成長。そしてあちこちに潜む謎解きのヒント。シャマラン監督は堂々と巧妙に、周到に、観客の好奇心を満たし、謎を追う楽しみをたっぷり味わわせ、加齢の様々な側面を描き出してくれました。
もっと掘り下げてほしい点もありましたが、何しろ時間はどんどん唐突に経っていきます。登場人物から様々な機会を奪ってびゅんびゅん過ぎていくのです。その感じ方は、コロナ下の今現在では、何だか切実にしみてくるものを感じました。(2021年8月27日公開/108分)