「そのビーチでは急速に老いていく…。衝撃かハッタリか、シャマラン・タイム!」オールド 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
そのビーチでは急速に老いていく…。衝撃かハッタリか、シャマラン・タイム!
もし、こんな旅行サイトの広告があったら…?
我らの楽園へようこそ。
当リゾート一番の自慢は、特別なお客様のみご招待するプライベートビーチ。
そこでは、“異空間”のような“時”をお過ごし頂けます。
早まって予約を入れないように!
“支配人”は、M・ナイト・シャマラン。(劇中では運転手だけど)
再ブレイクしてからも我が道を行く奇才が、またまた仕掛ける!
魅力的な広告に釣られ、一歩そのビーチに足を踏み入れたら、地獄の“時”が…。
サイトで見つけた南国リゾートへ旅行にやって来たある一家。両親は離婚を決意し、これが最後の家族旅行。姉と弟の幼い子供たちもそれを知っていて、楽しみの反面、複雑な心境も…。
マネージャーらホテルの素敵なおもてなし。着いて早々、特製ドリンクをサービス。末の弟はマネージャーの甥っ子と友達になる。(この2つ、後々伏線)
一家はマネージャーから秘密のプライベートビーチに招待される。他に、外科医とその若い妻、幼い娘、老いた母の一家も。
ホテルの車で森の中のビーチ入り口へ。何故か案内はそこまでで、荷物も自分たち持ち。運転手はさっさと帰ってしまう。
小さな谷を抜けた所に。確かに魅力的なビーチ。
だけど、うっすら閉塞感や寒々する雰囲気漂う。囲む珊瑚礁や岩々のせいか…?
ケチは付けられない。せっかくの贅沢な“時”を過ごす。
ビーチには先客。姉がテンション上がりまくりの人気ラッパー。心理学者と看護師の夫婦も遅れて合流。
楽しい時は、束の間。あっという間に戦慄の修羅場と化す…。
老化した女性の遺体が見つかる。どうやらラッパーの知り合い。ラッパーの挙動不審な言動…。
外科医の母が急死。
子供たちが姿を消す。と思ったら、見知らぬ子供たちが声を掛けてきた。お父さんお母さん、僕たちだよ、と。
我が子…なのに、気付かなかったのも無理はない。目の前に居るのは、“成長”した子供たちなのだから…!
ほんの一時の間に、11歳と6歳だった筈の子供たちが、一回りも二回りも成長。
驚愕、信じられない、何が起こったのか…? そんな言葉じゃとてもとても言い表せない。
奇怪な現象は続く。
死に至る重傷は別として、軽傷なら一瞬で治る…!
一家の母は悪性の腫瘍持ち。それが急速に進行。
親たちも目が衰えたり、シワが増えたり、老いが…。
一家の弟と外科医の娘が恋に落ちる。いつの間にやら“関係”を持ち、瞬く間に娘は妊娠、そして出産。(が、赤ん坊はすぐ死産…)
このビーチを出ようとする。来た谷を抜けようとすると…、突然意識を失い、再びこのビーチに…。
逃げたくても逃げられない。一体、“ここ”は何なのか…?
『ドラゴンボール』では、一日が外の世界で一年という“精神と時の部屋”。
日本人お馴染みの『浦島太郎』では、何十年も時が経つ“竜宮城”。
一同らが辿り着いた考えは、ここは、異常なスピードで“時”が流れるビーチ。
上記とは決定的に違う点が。上記二つはあくまで周囲の時が流れるだけだが、ここでは人体に影響。急速に身体が老いていく…!
ビーチからの脱出を図るが、彼らを“老い”と“不測の事態”が襲い掛かる…。
ビーチの謎やまたもや驚きのどんでん返しを期待してしまう、シャマランならではの異色スリラー。
ところがどっこい、シャマランのオリジナル脚本ではなく、グラフィック・ノベルの原作あり。元ネタくらいにしか過ぎず、内容自体はシャマランのオリジナルなんだとか。
何処からどう見ても“シャマラン色”になっている。
やはりこの奇抜な設定が面白恐ろしい。
もし、自分がこのビーチに足を踏み入れてしまったら…?
恐怖と、謎&謎と、不穏なムード…。
だけどシャマランは、キワモノ的な“オールド・ビーチ”にはせず、人間関係にフィーチャー。
異常な限定空間に閉じ込められた人々。家族の絆、男女愛、他人同士の団結力を描く一方、歪み、蝕まれていく人の心の薄弱さ、狂気。
メキシコ人、アメリカ人、黒人、アジア人…人種もバラバラ。
子供は大人へ。大人は老人へ。老いと死…。
限定された空間ながら、“世界”や“人生”の縮図。
シャマランはたかだか100分強の中に、それらを風刺を込めて描く。
また、ある記事かインタビューによれば、老いは今も世界を脅かす“アレ”、逃げられぬビーチは閉塞的な現在の世に置き換えられるそうだが、設定の奇抜さのインパクトが強く、そのメッセージ性は感じられなかったかな…。(個人意見)
見るこちら側が期待するのは、オチ。シャマランと言ったら、オチ。
本人は毎回毎回特別にあっと驚きのオチを用意してる訳ではないらしいが、もうどうしても避けられぬ宿命か…。
やがてこの“急速老化現象”はビーチを囲む鉱石に原因があるのでは…という考えに至る。
集った面々は無作為…と思いきや、共通点が。家族の中の誰かが、病持ち。
一家の母は腫瘍。看護師はてんかん。外科医は精神病。
何か意図が…?
時々、遠い山の頂きからこのビーチを監視する人影が。
これは、自然の超常現象か、何かしらの陰謀か…?
さて、そのオチだけど、賛否分かれそう。
ネタバレチェック付けるので触れるが、
老化するビーチ自体は、奇々怪々な自然現象。
が、集められ、地獄を体験する場を仕立てたのは、ある陰謀。
ホテルはある製薬会社の極秘研究所。偶然このビーチを見つけ、薬(=ホテルに着いた際飲んだ特製ドリンクの正体)の人体実験。
普通だったら投薬して時間が掛かる治験だが、このビーチだったら僅か一日で治験出来、経過も見れる。
ビーチでの一日は、人生の50年に該当。
自然の超常現象を利用した大企業の傲慢。
それはそれで恐ろしいし、ひょっとしたら現実世界にそんな考えに至る連中も皆無ではないかもしれないが、超常現象の謎としては呆気なく、人の陰謀絡みなのが、期待してたものとはちょっと違った。
巧くやれば『トワイライト・ゾーン』もしくは日本だったら『ウルトラQ』みたいになれただけに、急に好奇心満点のミステリー・ワールドから現実世界に戻されたような感じ。
風景は美しく一応リゾート気分は味わえ、ビーチ(=設定)は面白味あるのに、何か惜しい。別にこのオチ、絶対ダメ!…ってほどではないけど。
シャマランあるある、ツッコミ所も。
子供たちは目に見えて老いているのに、大人たちはあまり変化せず。細胞が老いているなんて言ってたけど、ちょっと納得に至らない。
鉱石が原因、一日が50年に該当…平凡な一般人である筈なのに、やたらと鋭い。
やがて歪んでいく人間関係を見せるのはいいが、所々意味不明な言動、展開。中盤辺り、ちと中弛み。
一人また一人と犠牲になっていき、両親も息を引き取り、残ったのは中年となった姉弟。
自分たちもここでこのまま老いて死ぬのか…?
そんな時、思わぬ発見。あのマネージャーの甥っ子からのメッセージ。そして、脱出のヒント。
二人は最後の決死の脱出を試みる…。
ホテルでは、また新たな治験者を招待して、陰謀続ける。
が、遂にそれも潮時が。マネージャーやホテル関係者の前に現れた、“中年姉弟”の生存と証拠によって。
陰謀は暴露され、悪事は挫かれたのだが…、
奪われ、失われた時と大切な人命はもう戻らない。
何か奇跡でも起きて、時も人命も取り戻せるのかと思ったら、シビア。
単なるハッピーエンドではない、悲しいラストでもある。
これは衝撃の作品か、ハッタリ作品か。
老い、人生、世界、人の傲慢、ミステリー・ゾーンに対しての、風刺、哲学、教訓か。それともだだのキワモノか。
シャマランは老いたのか、平常通りの作風か。
ザッツ・シャマラン・タイム!
それから、外科医が気になってたのは『ミズーリ・ブレイク』だよ。