「常に古くなっていく」オールド マガランさんの映画レビュー(感想・評価)
常に古くなっていく
M・ナイト・シャマラン作品は「アンブレイカブル」、「スプリット」、「ミスター・ガラス」の
シャマランユニバースしか観ていない。
「シックス・センス」もオチは知ってるけどちゃんと観ていない。
どんでん返しや奇抜な展開で語られるシャマラン作品だけど、
一時低迷してからの原点回帰してホラー、ミステリーで復活したというのは頷ける。
今作も原案というかほぼ原作(ピエール・オスカル・レヴィー、フレデリック・ペータースの
グラフィックノベル「サンド・キャッスル」)があるらしく、それを踏襲していったというけど、
【1日で一生(約50年)経つビーチ】っていうアイディアがまず良い。
SFないしミステリーとして引き込まれる。
細かいディテールでツッコミどころはあれど、そこまで気になるほどではなく、
ちゃんとビーチという閉じていないはずのところに
閉じ込められている感覚はあった。
後々で考えるとどのくらいの範囲が影響受けているのかは気になったが
観ているときにはそれは気に留めなかった。
閉じ込められて徐々に人々がおかしくなると同時に
刻一刻と年齢を重ねて子供は成長、大人は老化が進行するから
余計に厄介である。
医者であるチャールズ一家がそれらを如実に体現していて
高齢の母は真っ先に亡くなり、飼い犬も寿命で亡くなり、
チャールズは医者だが記憶障害や精神を病んで幻覚が引き起こされ、
妻のクリスタルは自身の老化と娘カーラの急成長についていけず、
互いに悲惨な結末となる。
ホラー的な要素は二人が担っているとも言える。
最初からビーチにいたミッドサイズ・セダンの不穏さ、
特に何かしたわけでもないのにそういう目で見られてしまう、
チャールズからは蔑視の眼差しを向けられ、ついには錯乱した彼に刺されてしまうのは
BLM(ブラックライブズマター)を想起してしまう。
娘のカーラも一番年が若い愛らしい女の子(設定上は6歳とあるが
もう少し下に見える)だったのが、大きくなって空腹に耐えれず
手づかみで食料を食べる様、
うっかり主人公一家の長男のトレントと関係をもって妊娠し、
出産するも赤ちゃんは急速な変化に耐えれずに亡くなってしまうし、
自暴自棄になって壁を上るも途中で意識を失い落下して亡くなるという、
一番悲惨だと感じた。あれぐらいのこの一生が数十分で終わってしまうのは、
現実の身にも来るものがあった。
主人公のキャパ一家の夫婦、ガイとプリスカは
お互いに未来、過去に囚われていて
プリスカの病気がきっかけで距離が生まれ、
プリスカには気になる相手もできて離婚前の思い出作りの旅行のはずが
一気に人生を駆け巡る流れになったが、あっという間の流れの中で
今を見つめてそこから過去にふけったり未来を考えることが大事なんじゃないかと
小難しくなく教えられた気がした。
そもそもシャマラン監督が娘たちからプレゼントされたのが原案の「サンドキャッスル」、
その娘たちの一人はセカンドユニット監督、もう一人がアーティストとして楽曲提供
しているというから、いろんなジャンルを横断した人生の映画なんだなと思った。
そのシャマラン自身も当然出演しており、送迎車の運転手というチョイ役かと思いきや
ビーチの様子を監視する役割も担っていてそこそこ重要という(笑)。
結局ホテルの経営が製薬会社という序盤の伏線から、
その製薬会社が秘密裏にあの発見したビーチで新薬開発のために、
いろんな持病を抱える被験者を選んで送り込んで人体実験を行い、
亡くなった被験者の情報は抹消して痕跡を消すということをしていたというオチ。
ホテルの支配人が新薬開発にかかる時間をここで大幅に短縮することができ、
1人の犠牲によって同じ病気を持つ何万もの人を救えると演説ぶっていたが、
サンデル教授の著作でも引用されたトロッコ理論で権力者とか
優位に立つ側から浴びせられる言葉だけどもジレンマだよぁ。
新薬開発に時間がかかるのは仕方ないけどそれが短縮できるならという
科(化)学者なら魅力に駆られるけども。
気になったのは職員が淡々と研究していて、誰も被験者に対して考えている
様子が見られないこと。ドラマが広がり過ぎるのもあるのかもしれないけど。
ラストは初老となったトレントとマドックス姉弟が
トレントが仲良くなった現地の子の手紙にあるメッセージから
サンゴ礁がビーチの影響を受けないことに気づき、
そこを泳いで脱出し、ホテルにたどり着くという。
序盤のトレントたちが遊びで大人たちの職業を聞きまわっていたことで
休暇中の警官に過去の被験者が残した日記を渡せるという伏線回収、
演出では序盤のプールだか一般のビーチでドクターフィッシュのいるところにいて
魚が寄ってくるのが、脱出後に正常な時間の流れる海で魚が生きて寄ってくる描写に
なっていたりとツッコミどころはあれど演出がいいと思う。
成長したトレントを演じたアレックス・ウルフが「ヘレディタリー継承」で
とんでもないことに巻き込まれる役で役回りなのかなと思ったり。
一番驚いたのは鑑賞後、成長したマドックスを演じたのが、
「ジョジョ・ラビット」で主人公と仲良くなるユダヤ人少女エルサを演じた
トーマシン・マッケンジーだったに気づき、2年くらいしか経ってないけど
凄く成長したなぁとこの「オールド」を観た影響かと一瞬戦慄した(笑)