「邦題を巡るトラブルも何のその、ミニマルなワンシチュエーションのサスペンスを見事な撮影と音響で具現化して退けた痛快極まりないB級パニック映画」元カレとツイラクだけは絶対に避けたい件 よねさんの映画レビュー(感想・評価)
邦題を巡るトラブルも何のその、ミニマルなワンシチュエーションのサスペンスを見事な撮影と音響で具現化して退けた痛快極まりないB級パニック映画
ロンドン在住のキャリアウーマン、サラはモーリシャスでの長いバカンスで知り合ったダイビングインストラクターのジャクソンと楽しい毎日を過ごしていたが、最後の夜ジャクソンに別れを告げるのが嫌だったサラは別れを惜しむジャクソンに内緒で帰国してしまう。1年後友人パスカルの結婚式にブライドメイドとして参加するためモーリシャスを訪れたサラはジャクソンと再会する。最初はギクシャクしていた二人は結局一緒に夜を過ごすが翌朝サラはまたジャクソンを置いて挙式を行うロドリゲス島へ向かおうとするが1日1便しかないフェリーに乗り遅れてしまう。しょうがなく挙式に出席する友人ワイマンの小型機に同乗させてもらうことにするが飛行場にはジャクソンの姿が。険悪なムードの二人を乗せた小型機は離陸するがさっきまで陽気だったワイマンが突然心臓発作を起こして計器に頭をぶつけて昏倒してしまう。自動操縦システムがしなくなった機体は真っ逆さまに海に向かって落ちていく・・・。
原題は“水平線“というシンプルなものですが、これではパンチが足りないと判断したギャガが当初発表した邦題は『元カレとセスナに乗ったらパイロットが死んじゃった話』。これを知った時にはなかなか斬新なタイトルだと感心したんですが、すぐさま“あの機体はセスナ”じゃないだろ!“とツッコミが着弾。一体どうするんだ、ギャガ?と思っていたら、繰り出してきたのがさらに斜め上を行くこの邦題。ギャガの宣伝スタッフの柔軟性に驚嘆しました。同じような話で思い出したのは、“Hidden Figures”というなかなか訳しづらい原題を『ドリーム 私たちのアポロ計画』とした20世紀フォックスの件、“あれはアポロ計画じゃなくてマーキュリー計画”と鳩尾にボディブローを食らった20世紀フォックスは結局『ドリーム』と改題、邦題だけではどんな映画か想像もつかないことになってしまいました。あと、ニュアンスは違いますが、アルフォンソ・キュアロン監督の“Gravity”に『ゼロ・グラビティ』という真逆の邦題を付けてしまうという珍事もありました。
しかしそんなトラブルは当然ながら本作のクオリティには何の影響もなく、この邦題がこれ以上ないくらいに鮮明に明示した、ほぼイドリス・エルバとケイト・ウィンスレットの共演作『ザ・マウンテン 決死のサバイバル21日間』と同じワンシチュエーションをハイテンションで活写。『ザ・マウンテン〜』は墜落してからのサバイバルでしたが、こちらはとにかく粘る、粘る。正直パイロット急死後に起こるトラブルなんて片手で足りるくらいのバリエーションしかないわけで全部観客の想定内のイベントなのに、その一つ一つをきっちり手に汗握る見せ場に昇華させたのはパインウッドスタジオで丁寧に作り込まれたセット撮影と、実写との境目が判らない見事なCG。引きの映像をほとんど使っていないので実際に同乗しているかのような臨場感がクライマックスまで漲っているし、ドラマの緩急にぴったり寄り添うサントラのオーケストレーションも見事。ミニマルな映像と対照的に過剰なくらいにゴージャスな音の壁がなければ映像はもっとチープに見えたかも知れません。そういう意味では本作はスクリーンでこそ真価が発揮される作品、この一見フザケた邦題で敬遠した人は大損だと思います。