劇場公開日 2022年1月28日

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「「かさぶたになる」のも悪いことではないのだけれども…守屋巡査には心から同情。」ノイズ talkieさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0「かさぶたになる」のも悪いことではないのだけれども…守屋巡査には心から同情。

2025年5月8日
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鑑賞方法:DVD/BD

場合によっては、正論を振り回すことが、必ずしも妥当・公正な結果につながらないということも、評論子は否定するものではありません。

しかし、本作の場合は、事故(評論子は、あえて「事故」と言います)発生の当初に真一郎(守屋巡査)が提案したとおりの出来事としてシナリオを作ってしまっておいたとしたら…本作の結末は、まったく違ったものになっていたことでしょう。
(もちろん、それでは、映画作品としては成り立っていなかったかも知れませんけれども・苦笑)。

「かさぶたに徹すること」が、必ずしも妥当・公正な結末に結びつくとは限らない―。

本作の場合、圭太や純の幼なじみでもあり、警察官としてもまだまだ若かった守屋巡査には、適切な判断と、圭太・純を適切に導くだけの行動は、おそらく難しかったことでしょう。

ちなみに、離島や山間僻地の駐在所には、定年間近な警察官が配置されることも少なくないとも聞き及びます。

それは、もちろん「お年寄り」には激務の第一線を退いてもらい、事件・事故の対応が少ない仕事(人はそれを「閑職」とも呼ぶ)に就いてもらうという意味合いもありますけれども。

しかし、そういう環境では、駐在員はたった一人で警察としての職務を執行しなければならない立場として、長い長い、長い在職中にいろいろな畑(部署)を歩いたことでの豊富な実務経験が求められるということの他、とかく閉鎖的になりがちな地域では、「飲み込んでも良いこと(飲み込んでしまうべきこと)」と「飲み込んでしまってはいけないこと(土地柄の困難を圧(お)してでも正規の手続きを行わなければならない場合)」との分別と、それを周囲に徹底させられるだけの行動が、ちゃんと出来る人でなければならないから―むしろ、こちらの方が、理由としては、大きいのではないかと、評論子は思います。

本作の出来事が起きた当時に、この島の駐在員が柄本明や、テレビドラマ「うちのホンカン」シリーズ(北海道放送(HBC)が制作し、TBS系「東芝日曜劇場」で1975年から1981年にかけて放送)を演じたような大滝秀治ばりの老練な警察官だったと、もし仮定したら…。

おそらく、本作の展開・結末も、また違ったものとなっていたことでしょう。
(それが、映画作品としては成り立つかどうかは、ここでは、ひとまず別論)

そのことについての、まだまだ人ととしても警察官としても若かった守屋巡査の慚愧(ざんき)というのか、後悔というのか、想い残しというのか…。
それを思いやると、評論子としては、本当に、心から、守屋巡査に同情を禁じ得ないところです。

ここで、評論子的にはようやっと本作のタイトルに関連するらしきことに触れることが出来るのですけれども。

上記のような立ち位置の守屋巡査にしてみれば、前任の(ベテラン?)駐在員のひとことを初め、外側(県警の介入)からだけでなく、内側(口さがない町長、過保護にも見えてしまう真一郎の母親)からもさまざまなノイズ(雑音)によって判断が揺さぶられたことでしょうし、自らを取り巻くさまざまなノイズ(不協和音)が大きな精神的ストレス、ダメージの原因となっていたことに、疑いもありません。

まぁ、本作を指して「新感覚サスペンス」と評するかどうかは、さて措くとしても。

 少なくとも上記のような「思い」を自らの若さを以て見事に好演した神木隆之介の演技を買って、評論子的には「本作は、それなりの佳作」と、ひとまずは評しておきたいと思います。
否、評論子的には、むしろ、守屋巡査の葛藤(神木隆之介の演技)あっての本作だったようにも、思います。

(追記)
もちろん、製作側は、そこまでは意図していなかったことでしょうけれども。

まだまだ若い(警察官としては経験の浅い)守屋巡査をこの島の駐在員にしたのは、評論子は、(いくら本人が熱望したとは言え?)愛知県警の人選のミス、思慮不足であり、実は、この一連の事件の遠因でもあったと思われてなりません。

(追記)
猪狩町役場からの「お知らせ放送」のイントロが、どうして「田園交響曲」なのでしょうか。
(犯罪など起きたことがないという平和な町の象徴?)

しかしながら、毎度まいど聞かされる町民には、立派な「ノイズ」だったんじゃあないかと思ったのは、果たして評論子だけだったでしょうか。

(追記)
まちの再生を賭けた物語としての構成上、舞台はどうしても田舎に設定せざるを得なかったのでしょうけれども。

田舎なんて、こんなふうに「何でもアリなのかなぁ」という誤解・偏見が本作で引き起こされたり、増幅されたりすることがないように思っているのも、独り評論子だけではないと信じたいところです。

talkie
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