「何でもノイズになり得る」ノイズ Uさんさんの映画レビュー(感想・評価)
何でもノイズになり得る
◉ノイズを探した
キャッチコピーは「殺した。埋めた。バレたら終わり。」で、サスペンス・スリラーの王道。そしてタイトルが「ノイズ」。であれば、完全犯罪を揺るがす、推理の不協和音がテーマかと思いましたが……。
関わった3人の青年たちの、罪への心の葛藤をノイズとは感じなかった。そこまで明確な心理描写はなかったと思います。
また、犯罪の綻びを突いて真相に迫っていった県警の刑事たちも雑音ではないし、島の人たちの口裏合わせの綻びも、ミスではあってもノイズにはならない。
では、何がノイズだったのか? と言うより、何に対して生じた雑音だったのだろう?
◉ ノイズは黒い特産品?
最初に不安な雑音として感じたのは猪……ではなく、やはり少女殺しの変質者。次は徘徊老人と町長。
町長の5億円発言は、島民の心に大きく入り込んでいく。
藤原竜也さん演じる圭太は、娘を変質者から護るために「うっかり」犯人を死に至らしめた。量刑の大きな要素があるのに、ためらわず3人掛かりで死体を隠匿しようとした。
ここは筋書きとしては不自然感は免れなかったとは思いますが、とにかく生真面目な男が「黒イチジクの栽培者」と言う重圧から隠匿を決めた訳です。
つまり「島の発展」を象徴する黒イチジクこそが、一番の強烈な雑音だったと言うのが、私の中盤の結論でした。それは自己防衛本能で凝り固まったような島で、人々の心に大きく響く雑音だった。
◉締めのノイズ
ところが、隠匿が明るみに出るにつれて、ノイズの様相が変わってきた。島対個人の不協和音から、個人対個人のノイズが掻き鳴らされる。ここまでは序章で、ここからがメインテーマだったと言うのは考えすぎでしょうか?
松山ケンイチさん演じる純にとって、加奈を奪った圭太だけは絶対に許せない人生の雑音だった。親友だからこそ鬱陶しいが、殺意には至らない。ならば島から消えて欲しいと言うのが、彼の本音だった。ようやくミステリー感が染み出した訳です。
で、黒木華さん演じる加奈はいつしか、圭太の栽培に懸ける熱情も、純の変わらない愛情も、もう雑音にしか聞こえなくなっていた。狭い島の中で、男たちや老人たちの身勝手には付き合えない。もう出て行こう。何かサバサバした顔つきで廊下を辿る圭太。
観てきた者は、遣りきれなさを一つの満足感のように胸に抱いて、シアターから去る。