「悲しくておかしくてシュールで」ONODA 一万夜を越えて SP_Hitoshiさんの映画レビュー(感想・評価)
悲しくておかしくてシュールで
長いが、さまざまな種類のストーリーが次々に展開されているようで、全く飽きなかった。面白かった。
戦争の極限状況の悲惨さからはじまり、終戦後からはフランス映画らしいシュールな空気に、日本人による投降を呼びかけられたパートではコメディのテンション、小塚が死んで一人になってからは、小野田の内面を丁寧に描きしんみりさせる。
史実と違うところや創作した部分も多いような気もするが、史実を元にして、極限状況における人間の狂気と本質を表現したかったのではないか。
連想したのは、「南極物語」。あの映画も、最後にタロとジロが生き残るという史実だけが確定しており、そこに至るまでの過程はほとんど想像だが、タロとジロ以外の犬たちのそれぞれの死に様が描かれる。
この映画も、小野田だけでなく、さまざまな兵士の死に様を通して、戦争という理不尽に放り込まれた人間たちのさまざまな表情を描いている。使命に殉じようとする者、壊れていく者、正気を保とうとする者、戦う意味を求める者、無意味さに苦悩する者、あっけなく死ぬ者…。
印象に残るのが、二俣分校での教育。「自分自身が自分自身の司令官となれ」「目的と本質を失わず柔軟であれ」「栄誉なき栄誉」などなどの考え方は十分現代の教育にも通じる。時代が違えば谷口は良い教育者になれたのだろう。
また、「玉砕(自決)を許さない」というのは、単に陸軍に対する責任ゆえに、ということだけでなく、決して死ぬな、という深い愛情のこもった言葉のようにも思う。
小野田さんという存在は、さまざまなことを想起させる。戦中と戦後で価値観が一気に変わったこと、敗戦国である日本が一気に豊かになり、経済大国と言われるまでに復興をとげたこと、人権や人命が尊重される世の中に変わったこと、など。