劇場公開日 2021年9月3日

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「四つの物語を絶妙に絡めながらずっしり重たい結末に導く、森林版『グロリア』」モンタナの目撃者 よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0四つの物語を絶妙に絡めながらずっしり重たい結末に導く、森林版『グロリア』

2021年11月7日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

主人公は森林消防パラシュート降下部隊員のハンナ。森林火災でハイキングに来ていた少年達を救助出来なかったことがトラウマとなっている彼女は危険な任務で自分の命を危険に晒すことで自分の中にある罪の意識と向き合うことを避けている。そんな彼女の痛ましい様を元恋人の保安官イーサンは心配しているがハンナは胃に介さない。森の中にある見張り台での泊まり込み勤務となったハンナは一人の少年を発見する。その少年コナーはある秘密を抱えた会計士の父親が運転する車が銃撃され命からがら森の中を逃げてきたことを知ったハンナは彼を保護するが、その背後には謎の男達の影と森林火災が迫っていた。

一見森林版『グロリア』みたいな話ですが、何気に独特な筋書き。ハンナとコナーの逃避行と、静かな町に突然起こった殺人事件を静かに追うイーサンの姿が並行して描かれますが、そこにコナーを追う暗殺者達の微かな憂鬱とイーサンの身重の妻でサバイバルスキルの達人アリソンの活躍が足されていて、単純な勧善懲悪に着地しない展開も含めて非常に個性的な物語となっていて、この辺りはネイティブアメリカン居留区で発見された凍死体の謎を追う新米FBI捜査官と野生生物局のハンターが追う『ウィンド・リバー』の監督・脚本を手掛けたテイラー・シェリダンの作家性によるもの。

自暴自棄な行動に身をやつしていたハンナがコナーを助けることに命を賭ける様をアンジェリーナ・ジョリーが見事に体現していますが、本来ならチョイ役程度のはずであるアリソンの存在感が非常に大きいのが意外。普通のB級アクションならあっさり殺される役回りですが、サバイバルスキルのトレーナーなので妊娠中とは思えない俊敏さで森の中に姿を消し暗殺者達に対峙するタフさと夫であるイーサンを包み込む母性を発揮する女性で、むしろ『グロリア』的な存在は彼女が担っています。普段は悪役を演じることの多いジョン・バーンサルが心優しいイーサンを演じ、逆に甘いマスクで善人を演じることが多いニコラス・ホルトが冷酷ながら微かに優柔不断な暗殺者パトリックを演じているというのもなかなか異色。いかにもB級な味わいの地味な邦題が災いしたのか評判が全く聞こえて来ませんが、ずっしりと重い余韻を残す印象的なスリラーに仕上がっています。

よね