「ユダヤ人迫害を扱う映画の多様化」復讐者たち 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
ユダヤ人迫害を扱う映画の多様化
ナチス戦犯の孫息子と迫害されたユダヤ人の孫娘が恋に落ちる「ブルーム・オブ・イエスタディ」、ヒトラーユーゲントに所属する少年が自宅にかくまわれていたユダヤ人少女と出会う「ジョジョ・ラビット」、第二次大戦下の東欧でユダヤ人少年が受難の流浪生活を送る「異端の鳥」など、ユダヤ人迫害を題材にした映画の多様化が近年顕著であり、本作もそうした流れをくむ一本だ。
共通するのは、ナチスドイツ=絶対悪の加害者、ユダヤ人=絶対善の被害者という単純化された図式で描くのではなく、善と悪を相対化すること。善き行いをするドイツ人もいれば、悪さをするユダヤ人もいる。個人の内面も単純ではなく、善の部分と悪の部分が混在している。作り手が戦争の体験者たちから子や孫の世代に引き継がれ、ホロコーストの悲劇を客観視しようとする傾向が強まっているのも一因だろう。
さて本作は、敗戦直後のドイツで、ホロコーストにより家族を殺されながらも生き延びたユダヤ人らの過激な一派「ナカム」が、密かにドイツ人を殺して復讐していたという史実に基づくサスペンスドラマだ。戦後にイスラエルで生まれた世代であるドロン・パズとヨアヴ・パズの兄弟監督も、子供の頃は聞かされたことがなかったといい、いわばユダヤ人コミュニティーにとっての黒歴史なのだろう。なお、実在の人物はナカムの首謀者アッバ・コヴナーだけで、主人公マックスを含む他の主要人物は創作されたキャラクターだ。マックスは潜入捜査のような使命を帯びてナカムに仲間入りし、報復のためドイツ人600万人を殺害しようとする極秘計画「プランA」を知ることになるが、彼自身も妻子の命をナチスに奪われた喪失感と憎悪を抱いており、復讐に加担するか阻止するかで激しく葛藤する。開けてはならない袋をマックスが開けたとき、何が起きるのか。終盤の見せ方を含め、ストーリーテリングにセンスを感じさせる力作だ。