劇場公開日 2022年7月15日

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「本作には登場しませんが、原作者としてムチャブリを押しつける上田監督の存在感は半端なかったです。」キャメラを止めるな! 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5本作には登場しませんが、原作者としてムチャブリを押しつける上田監督の存在感は半端なかったです。

2022年9月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 今年のカンヌ国際映画祭でオープニング上映された「キャメラを止めるな!」を見てきました。
 本作はご存じ「カメラを止めるな!」をフランスでリメイクした作品。オリジナルは監督も役者も無名の超低予算映画でしたが、こちらはロマン・デュリスやベレニス・ベジヨらスターが主演しています。監督はアカデミー賞受賞作「アーティスト」のミシェル・アザナビシウスが務めるなど豪華リメイク。

 改めて説明するまでもないですが、本作は山奥の廃虚でソンビ映画を撮影するクルーの物語です。そこに本物のソンビ(?)が現れ、撮影不能寸前になりますが、何とか最後まで撮り終えることに。エンドマークを迎えたところで、この映画がなぜ作られたのか、舞台裏の種明かしが始まるという展開。

 物語は日本版とほぼ同じ。日本版は監督も役者も無名、前半のゾンビ映画は画質も含めていかにも素人くさいものでした。仕掛けを知らない観客がほとんどで、後半の展開に本当に驚いて2度見したくなるような作りだったのです。

 リメークにはたいてい文句を付けたくなるものです。元がいいからリメークするわけで、それ以上になるのが難しいのは当然のこと。しかも最初からオチがバレています。
 そこでアザナビシウス監督は独自の工夫を加えていました。ロマン・デュリスやベレニス・ベジョら有名俳優を起用したのは、最初から観客に仕掛けを予感させるため。製作費をたっぷりかけているから、前半のできの悪い映像もよくできていて、オリジナル以上に劇中劇のB級くささや、あれっと思わせるあり得ない演出がパワーアップしていたのです。オリジナルに敬意を払い、細かいギャグまで忠実に再現されているものの、リメイク最大のポイントが、オリジナル版原作者の存在。日本からやってきたプロデューサーが、何かにつけて原作者の要望として、ムチャブリを突き付け、劇中劇の監督レミー( ロマン・デュリス)を悩ませるという展開なのです。その結果劇中劇ではノーカットの長回しでカメラを止めてはいけなくなり、なぜか登場人物の役名が日本人名に変えられたのでした。むちゃな仕事を受けるという展開自体は日本版を踏襲したものですが、日本人プロデューサーの要求で日本版のリメークを作るという設定のひねりで、映画の構えが一回り大きくなったと思います。
 だからといって日本版を超えたかというと、そこは難しいでしょう。見たことのないものに驚くのは映画の原初的な楽しみ。最初からオチがわかっているリメイク版にはどうしてもハンデがつきまといます。本作ではそんなドンデン返しよりも、それをどう見せてくれるかを期待しながら折り返すところが見どころといえるでしょう。
 衝撃度では「カメ止め」に遠く及びませんが、フランス版はきちんとまとまった良質のコメディーになっていました。

 ところで先ほど触れた日本人プロデューサーの役は、オリジナルから引き続き竹原芳子が演じています。「彼女は予測出来ないエネルギーを持っている。彼女が登場することで、観客は突拍子もないストーリーを違和感なく受け入れることが出来るんです」とアザナビシウス監督は、彼女の存在感を大絶賛していました。
 彼女の繰り出すムチャブリによって、フランス人らが混乱していく様子など、文化の違いから生まれる笑いも感じられるはずです。だからオチを知っているのに、新鮮な気持ちで見ることができのです。日仏版をぜひ見比べてほしいですね。

 さらに本作独自の笑いどころは、音響担当のファティ(ジャンパスカル・ザディ)です。彼はドタバタの最大の犠牲者になるところ。「日本版を見ていて、じゃあ、前半30分の映画音楽は一体誰が付けているんだ?と。それでファティを思いついた。すべてが間違った方向に進み、展開もクソもなくなった時、音響担当はもがき苦しむに違いないと(笑)」とアザナビシウス監督はインタビュー記事で述べていました。ファティの苦悩する姿には本当におかしかったです。

 最後に、エンドロールにも必見のシーンが出てきますので、お席を立たないで最後までご覧ください。
 それにしても、本作には登場しませんが、原作者としてムチャブリを押しつける上田監督の存在感は半端なかったです。ご本人もしてやったりという満足感に包まれたのではないでしょうか。

流山の小地蔵