「今泉力哉監督らしさが、いまひとつ」かそけきサンカヨウ 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
今泉力哉監督らしさが、いまひとつ
今泉力哉監督、大好きな作り手の一人であり、春に公開された「街の上で」も今年の私的ベスト10に入れたいお気に入りだったので、本作も当然楽しみにしていたが、期待値を上げすぎてしまったか。
窪美澄の短編小説の映画化だそう。幼い頃に母親が家を出て行き、高校生の今は“主婦業”もけなげにこなす陽(志田彩良)。父の直(井浦新)から、再婚を考えている相手・美子(菊池亜希子)に引き合わされる。美子の幼い連れ子もすっかり直になついているのを見て、気持ちは複雑…。
子供の頃そういう境遇になったらそれはもう混乱して思い悩むだろうというのは想像できる。だから似たような経験がある人なら共感できるはずとも思う。でも、それを超える深い何か、経験や立場が違う大勢にも響く普遍的な力が足りない気がする。人物の繊細な心情の丁寧な描写などはもちろんこれまでの今泉作品に通じるのだけれど。
あと、好みの話になってしまうかもしれないが、大勢がわちゃわちゃした感じになるシチュエーションや、笑っちゃうほど意外な展開など、個人的に好きな今泉映画の要素(「こっぴどい猫」や「退屈な日々にさようならを」などがそう)が足りないからかもしれない。挙げた過去作3作はいずれもオリジナル脚本だが、小説の映画化でも「アイネクライネナハトムジーク」はとても好きだ。
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