劇場公開日 2021年9月23日

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「傑作。」MINAMATA ミナマタ TSCMさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0傑作。

2022年6月25日
iPhoneアプリから投稿

自分にとって生涯Top5に入る名作となりました。去年公開されたColumbusと同様に、自分の人生に大きく影響を与えてくれれました。映画館から出た後、世界が変わって見えたのは久々でした。

世界に大きな影響を及ぼした公害、水俣が題材であり、あのユージンスミスをジョニーデップが演じ、日本の名優が囲み、音楽は六ヶ所村原発等、環境問題に取り込む坂本龍一が担当する。なんて凄いプロジェクト。

誰もが気軽に写真を撮り共有することで、皆がある種のジャーナリズムを獲得しているスマートフォン時代。さらにコロナという新しい災害に直面している点でも公開タイミングにも意義がある。

この映画が特殊な力をもってるとわかる、静かで鮮烈なオープニング。
落ちぶれていたユージンが写真家として再起していく過程で、水俣で出会う被害者たちとの関係性も、実際にあった深い絆を感じることができる。
歴史に残る入浴シーンの撮影の瞬間、あのカタルシス。何度でも観たい。

ユージンの作品内のセリフにある「アメリカ先住民は写真を撮られると魂を抜かれると思っていた、だが写真を撮る方も魂を削られている」、また、自分のカメラを渡して、「写真はJazzと似てる。即興が大事だ。お前の音楽を奏でてこい」というセリフ。これは太平洋戦争や街医者の撮影の経験や、セロニアスモンクらジャズアーティストとの交流を持つ彼のバックボーンを孕むセリフとなっていたことなど、作り手がちゃんとユージンのこれまでの人生があった上で今ここにいることを伝えてくれる。

現代ではネットで情報が氾濫してデマだ、陰謀だ、真実だ、ああだこうだ、錯綜する。冒頭、ユージンは自分のマンションから通りに出るときに周りの雑踏に舌打ちをする。これは、そういうことだと思うこともできるし、圧倒的現実に疲れているのかもしれない。
ユージンは常に圧倒的現実の中にいて、それをひたすら写真として世の中に自分の見た事実を拡散してきた。彼の拡散の意味と今の私たちの拡散の意味の振り幅に時代の移り変わりの断裂を見る。圧倒的現実というのは飛び込む勇気がいる。今は良くも悪くも飛び込まずして誰かのフィルターを通した無数の現実を見ることができる。本当に良くも悪くも。

ユージンはLIFE紙の依頼を受け仕事をする職業カメラマンだったが彼は常に自分の写真が芸術の域に達するように、LIFE紙からの依頼は挑戦として受けていたという。仕事人としての彼の姿勢にも、人によっては自分を重ね合わせて何か思うことができるのでないか。少なくとも同じカメラを生業とする自分は思うことがあった。

「-信念、トライ、カメラ、そしてフィルム、私の良心の壊れやすい武器たち。これらを武器に私は戦った」
このユージンの言葉は自分に置き換えたとして、自分の良心の武器とは何で、何と戦うことができるのだろうか。

映画MINAMATA。観れてよかった。

TSCM