「キスと同じで聞くのは野暮だ。今だと思ったら撮る」MINAMATA ミナマタ shimoさんの映画レビュー(感想・評価)
キスと同じで聞くのは野暮だ。今だと思ったら撮る
映画「MINAMATA ミナマタ」(アンドリュー・レビタス監督)から。
冒頭の「史実に基づいた作品」の表記に、
覚悟をもって鑑賞しなければ、と妙に緊張したのを覚えている。
その緊張を解いたのは、導入部のワンシーン、
アメリカを代表する写真家と称えられたユージンに、
アイリーンと名乗る女性が、写真撮影を依頼する場面だ」
確か「フジカラーのCM」に一言添えるだけの依頼。
彼が訊く。「台詞は?」彼女が答える。
「フジのカラーフィルムはどこの製品より色鮮やか、
僕のお墨付きだ」と説明。その台詞に、彼が突っ込む。
「カラー写真は撮ったことがない。ただの1度も。
俺の仕事を知る者なら当然気付くはずだ」と。
このファーストコンタクトが、彼をその気にさせた気がする。
わざと、白黒(モノクロ)写真しか撮らない写真家に、
「カラー写真のCM出演」を依頼する、そのテクニック、
お見事・・と拍手を送った。
あとは、絵画的な美しい映像を観ながら、期待どおりの展開に、
胸が熱くなって観終わった。
「写真は撮る者の魂の一部も奪い取る。
つまり写真家は無傷ではいられない」と言う写真家の覚悟と、
「撮っていいか聞かないの?」
「キスと同じで聞くのは野暮だ。今だと思ったら撮る」
「こんなふうに?」「そういうことだ」と言う、
少しだけホッとするシーンが私にはウケた。
「撮っていいですか?」と訊いてからシャッターを押すのでは、
本当の写真が撮れない・・という意味だろう。
水俣病の若者に、カメラを渡してアドバイスする。
「見ろ、誰でもできる。訓練は必要ない。
狙いをつけたら焦点を合わせ、パシャリ」
どちらも、同じことを言っているんだよなぁ。