「見終わった後の感じがとてもいい。」MINAMATA ミナマタ waiwaiさんの映画レビュー(感想・評価)
見終わった後の感じがとてもいい。
いやーいい映画だった。読後感がいいという感じで、映画を見終わった後の感じがとてもよかった。伝えたいことを無駄なくはっきりと提示していて、それが過剰でも過小でもなく、気を衒うこともなく、誠実な感じで伝えられる。色々なことが起きた末に、水俣の人たちがユージンに心を開いて、自分たちの写真を撮らせていき、それが世界に伝わるというところで映画は終わりますが、その写真を映画の中で重ねるんですけど、泣きました。ストーリーで泣いたのではなく、取られた写真をポンポンと提示しているだけなのに、涙が溢れてきます。よくできてるなあと思います。
カリブの海賊野郎がこんな映画を作るとは…ジョニー・ディップはもともと写真が好きなんだそうです。ですからタイトルは水俣ですが、一人の写真家の映画です。レヴィタス監督は、ディップの熱意が映画制作全体を動かしたと言ってます。
日本とフランスのハーフの美波の存在感もとてもいいですね。しかしなんといっても、國村隼。チッソの社長でした。すごいです、相変わらず。
ユージン・スミスが騒動に巻き込まれて怪我をしたのは知っていたけれど、こんな背景があってのことだったのかと。しかも、水俣の問題が世界に普遍的な問題であり、福島第一原発事故で、あまりにそっくりな手口であったことは、私たちもよく知るところではありますが、映画のエンドクレジットで、次から次へと水俣同様の事件がこれでもかこれでもかと並べられる。チッソ社長の言葉はまるで東電の経営陣の言葉に聞こえるし、何も変わってない。何より水俣はまだ終わっていない。それも最後に静かに伝えられます。水俣闘争の中心に置かれた真田広之演じる山崎みつおが、映画の中で、子どもどころか孫世代が闘うためにと言っていたのは、そういうことかと。
ストーリーとしては、ライフ誌社長との関係が心棒として展開する。その話は、今のジャーナリストのあり方を貫くものになっています。資本主義社会が瑣末なこととして切り捨てる人々の生活を報道することの意味を抉り出します。命懸けでユージンとアイリーンはやったということです。
映画を見ていて、ずっとこれは水俣の風景ではないなあと感じながら見ていました。昨年実は念願かなって、初めて水俣に車で行って、水俣周辺をグルグルドライブしたのでわかりました。パンフレット見ると、水俣現地ではほとんどロケされていません。音声は取ったそうです。そういうことからしても、水俣は固有名詞というより、普通名詞化されている。現地ロケでは、当時の水俣は再現できないほど変わってしまっているため、セルビアとモンテネグロで大部分は撮られたそうです。ユージンとアイリーンの話も事実とは時系列的には違っているそうです。でも、その自由さで、記録映画とは違った形で水俣や、それに連なる問題をくっきりと見せることができたんだと思います。