「ルリ子との関係性」シン・仮面ライダー ダンマダミタさんの映画レビュー(感想・評価)
ルリ子との関係性
中学の頃、テレビで見、原作漫画を読んでハマったものです。テレビではライダーの見た目の格好良さとアクションにしびれたが、中学生の身にはいかにも子供向きで、安っぽいつくりは不満だった。ところが石ノ森章太郎氏の原作は大人向きに描いてあり、そのムードは魅力的だった。だから当時思ったのは、「この原作のような感じで、実写版があればどんなにいいだろう」ということだった。今回、庵野秀明氏が「シン仮面ライダー」を作ると聞いて思ったのは、「庵野氏なら、きっとそれをやってくれるに違いない」ということだった。だから大いに期待した。
予想は当たっていた。この映画はまさにそういうものだった。それは今までにない、リアルな仮面ライダーだった。特に素晴らしいのは、「もし自分が本当に仮面ライダーになったとしたら、いったいどんな感じなんだろう」ということをとことん追求した点にあると思う。マスクをしばしば着脱したり、マスク越しにしゃべる声がくぐもっていたりする点はリアルだった。本郷のセリフが棒読みで、なんだかいつもぎこちないのは、庵野氏が「俺がもし本郷なら、こんなふうにふるまうだろう」ということだったと思う。たぶん私もそうなったかもしれない。藤岡さんのようにはふるまえない。そこは共感できた。
しかし、映画を見終わった時の感想は「まあ、悪くないかな」というところだった。なぜかというと、ルリ子との関係性がリアルさに欠けていたからだ。とはいえ、この映画における本郷とルリ子との関係性は「設定上は」とても魅力的なものだった。
昔の仮面ライダーの写真で、本郷とルリ子がサイクロン号に乗っているものがある。本郷が座席にまたがり、ルリ子がバイクのタンク部分に横ずわりしている図だ。二人の距離はかなり密接している。この写真はとてつもなく色っぽかった。子供心にドキドキした。ルリ子の体温まで感じられるかのようだった。これが普通の若い男女だったら、なんてことはない、普通の写真である。ところが、仮面ライダーがこれをやるところに凄まじい色気があったのだ。今回の映画が、ルリ子と本郷の関係性を主軸にしているのは、庵野氏もこの写真を見て、同じことを感じたからじゃないか、と私はひそかに邪推している。
だから私はそれに期待した。本郷とルリ子との関係性が次第に深まっていくことに。庵野氏も、恐らくそれを目指したはずだ。実際、そういう話にはなっている。しかし、どうにも、そこにリアリティが感じられないのだ。二人が隠れ家でザコ寝をしたり、「汗臭い。いつも防護服ばっかり着てるから」と言ったりする描写は現実的でとてもいいのだけれど、何かつまらないのだ。別にラブシーンが必要だと言っているのではない。二人はウブなままでいい。ラブストーリーの最も感動的な部分は肉体的な部分ではなく、心の部分だと私は思っている。しかし、その部分が弱い。
これは庵野氏がオタクで経験不足だからだ、とは言いたくない。プレイボーイがみんな優れた恋愛小説を書けるわけではないだろう。別にモテなくても優れた恋愛小説を書ける作家はいる。つまり、そういう才能を持つ人が稀にいる、ということだと思う。だったら、そういう人に脚本を協力してもらったら良かったんじゃなかろうか。
そうやって、ルリ子との関係性の描写をもっとリアルなものにし、敵の怪人を減らし、アクションシーンを減らせば、素晴らしい「仮面ライダー」になったと思うんですけど。