「家族の思いを感じる物語」コットンテール humさんの映画レビュー(感想・評価)
家族の思いを感じる物語
明子は、病そのものよりも自分がいなくなった後の夫や、息子との関係が心配でたまらなかったようだ。
その夫、大切な日に息子が連絡をとるのにひと苦労させる。魚屋のバカにした態度が気にくわなければ頭にきて蛸をくすねる。それを持って妻と出会った馴染みの寿司屋の開店前なのに入れてもらう。弔事の前にどうしても(エアー明子と)乾杯したい。
なるほど…兼三郎はなかなかのマイペースで頑固でプライドがあって、不器用なさみしがりときた。
知り尽くす妻としては、そんな夫の自分の亡き後の様子が手に取るように想像できていたのだろう。
だから夫にも息子にも最期についての意志をそれぞれに話しておいたのだと思う。
そして、そのどちらも兼三郎の心の負担を軽くするための支度であり、家族への深い愛情で。
息子からみれば父は献身的に母を介護してくれたものの息子を頼らなかったし、案の定、弔事、旅先でも勝手な行動や発言を繰り返す。
以前から2人にはすれ違いによる距離があったようだが、息子はこんな時に及んでまで父が自分だけでなんとかしようとするところ、その割にうまく立ち回れない様子に苛立ち、嫁に気を遣わせてるのもわからないような姿に呆れてしまう。
嫁も健気に義父をフォローしていたが、慣れない地で長時間勝手に娘を連れ出した時にはさすがに心配が度を越え怒りの態度をみせた。
挙句の果てにはどうしてもとひとりで予定を繰り上げ迷子になる父である。
明子はほらやっぱりと空の上で眉をしかめていた事だろう。
いよいよピンチ?!と思ったがそうなったあとでも、結局息子夫婦は兼三郎を見放すことはなかった。
それは生前の母・明子の在り方のおかげだったのだろうなと思う。
明子亡き後もその思いは生き続け、そんな兼三郎と息子家族の繋がりが弱る度に何度も修復し続けてくれているようにみえた。
兼三郎が迷ったとき助けてくれたイギリス人父娘も大きなひと役をかってくれた。
もともと口数も少ないので会話も充分ではないが兼三郎の状況を察してある事情を話してくれた。それをきっかけに境遇を重ねあわせた兼三郎がはたと気付いた瞬間がある。
それがなかったら結末はもう少し変わっていたかも知れない。
いつもの兼三郎のふるまいにより珍道中になりながらも、みんなの助けを得て明子の念願はようやく叶った。
兼三郎は自分の役目を遂げそれまでの肩の力を抜くように、あれだけがっちり身につけていたカバンを丘の草原にふわりと置くことができた。
生前の明子が兼三郎とカフェの席で、リサイクルショップに出しちゃうわよ〜みたいなことを冗談めかして言っていたが、いろんな意味を込めほんのりお灸をすえておきたかったんだろうな。
そんな手の焼ける夫が、息子の家族と幼少期の思い出の場所にいる。あの時の自分みたいに家族とうさぎを追いかけ無邪気にはしゃいでる。
その光景に明子はようやくにっこり微笑んだと思う。
そしてもしかしたら、自分のことで家族に迷惑をかけたくないと言っていた明子の気持ちを汲むあまり兼三郎は自分1人で役目を果たそうとしたのかも。
だから息子とイギリス行きの話をしたときあんな言い方をしていたのだろう。(小さく付け足した言葉に本音は漏れちゃっていたけれど。)
それに普段から誰かを頼れないタイプの性格だと頼むことほど頑張らないといけない事はない。(私の父がそうであり、何を隠そう私も引き継いでいる。)
だからわかるのだが、父に対しては明子や息子のような思いをする割に、自分のことは〝兼三郎〟路線に近い。
でもこれを観てちょっとは反省😅
この物語はどこにでもありそうな家族の思いが溢れている。
みんなが本当は優しく向き合っているのだ。
だけど、家族だからこそ近い人だからこそしまい込んだり、出しすぎたりする本音。
その匙加減が難しいのだろう。
余白の部分を察して寄り添ったあのイギリス人父娘を見習い、ちょうどよい具合で手をさしのべれる人、そしてそれをありがたく受け入れる人になりたいなぁと思ったりした。
誤字訂正済み
⭐︎更新済み
humさん、共感&コメントありがとうございます。
>クセ強い兼三郎でしたね。明子にとっては長男のようだったかも
これ本当にその通りかも です。・_・
「夫」=「大きな子供」
奥さんの方が受け入れられないと、行き着く先は「離婚」
かな? などと思ってしまいますが…。@∇@;
明子さんが包容力の大きな女性だったと言うことなのかも
しれませんね。
こちらで失礼します。
タコが欲しくて早朝の市場に行った。しかし、市場で魚屋にタコはお得意さん用だから売れないと言われ、高いマグロを勧められたが、それはいらないと言い、魚屋がマグロの能書きたれている間にタコをくすねた。
(板前さんが、まだうちにも搬入されてないのにどうしたの?と言ったら、しらっと買って来たんだよと答えた)という事だと思います。
他人のレビューを読んでいると意外とタコくすねたのを気付いていない人いるんですよね
マサヒロさん、こちらに返信いたしますね。コメントありがとうございます。私も兼三郎はきっと変わらないと思います。この旅で、明子の希望を叶えたのが彼にとっての達成感。父の母への愛はたっぷり伝わり本音を出せた慧は、少し気が晴れたかも知れないですね。同居は考えずいい距離で暮らして行くのがいいのかな、なんて余計なことを想像してます。どうしても詩レビューになりがちで😅すが、そう言っていただけるなんて嬉しいです。
私も同じです
なかなか表には出せませんよね
たまに思い切って出してみますが怒られます
出し方が変なのか出しすぎるのかは分かりませんがね
そんなところが難しく面白いです
humさんこんにちは。コメントありがとうございました。
本当にどこのご家庭にもありそうで、でもなかなか難しいところもあって。。明子の存在は大きなものだったのですね。
レビュー最後の「ちょうどよい具合で手をさしのべれる人…」のところ、素晴らしいです。
深いご考察ありがとうございました😭多分おっしゃる通りの流れですね。
ただ、私ごとで恐縮ですが 本当に大切な人を失った場合 陰膳なんて気取ってる余裕は無いですし
第一、盗む気力どころか 食欲飲む欲も【通夜葬儀の期間ぐらいは】失せるのでは と感じました。
パトリック監督 技巧に走ったなと感じました。
貴殿のご考察どおりですね 勉強になり📚ます。またよろしくお願いいたします🙇
私の父も迷惑をかけないと言いながらさんざん迷惑をかけて逝きました。私もだんだん父と同じようになってきているので気をつけようと思います。
迷惑かけてもいいんですよねって、なんかの映画の台詞にありましたね。
共感&コメントありがとうございます。
こちらこそ、humさんのレビューに改めて感動をいただきました。
家族だからこそ言えない、言いたくないことってありますよね。不器用で口数の少ない兼三郎の描き方って、ある意味とってもリアルだなと感じました。
こんにちは。
今、丁度クジラのレビュー書いてました♪
↓大吉さんと同じく、humさんのレビューで泣きましたよぉ。
作品の評価も上がりましたw
空から見ているであろう明子さん。兼三郎にヒヤヒヤしながらも最後はホッとしたでしょうね。
息子と男親(父親)の関係性を上手く描いていましたね。
共感&コメントありがとうございます。
はい!とても良いシーンでした。
もどかしい距離感、上手くいかない不器用な歩み寄りなどお二人の演技もあり、様々なものが伝わってきましたね。
共感ありがとうございます。
命が絆を取り戻させたという、最近敬遠しているお話でしたが、介護の場面なんかはリアルな描写でした。
紅茶缶とかメチャ堅そうなビスケット、馬好きとか、小ネタも悪くなかったと思います。