クレッシェンド 音楽の架け橋のレビュー・感想・評価
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分断の乗り越えの困難さ
イスラエルとパレスチナは、世界の分断の象徴みたいな場所だ。そこでイスラエル人とパレスチナ人の混成でオーケストラが結成される。両者の溝は簡単には埋まらない。合宿を経てもなお、互いをののしり合う。文化は世界を1つにすると理想論では語れるが、現実にそれを実行するのはものすごく難しい。本作は安易に理想的な「分断の乗り越え」を描くと見せかけて、分断を乗り越える困難さを語る。クライマックス、ガラスで隔てられた楽団員たちの奏でる音色だけがそのガラスを乗り越える。
ポスタービジュアルに明るい黄色をメインに使ったりしていて、ハッピーな雰囲気が漂っているが、無責任なきれいごとは描いていない、むしろ、弱々しいしい理想論を、厳しい現実で打ち砕くような結末を迎える。そのぶん、友和をあきらめないという姿勢の強さが際立つ。わかりあうことの難しさを真剣に見つめることから始めなくてはいけない。
話が真面目に寄りがちなのは、“加害者”側の贖罪意識の表れか
脚本・監督を務めたドロール・ザハヴィはイスラエル出身で、1990年代からドイツに移住し主にテレビ番組の製作に携わってきたという。ザハヴィが本作の着想を得たのは、名指揮者のダニエル・バレンボイムがイスラエルとアラブ諸国の若者たちを集めて結成した「ウェスト=イースタン・ディバン管弦楽団」の活動。バレンボイムはアルゼンチンのユダヤ移民の子で、家族と一緒にイスラエルに移住したが、同国政府のパレスチナ占領政策に批判を続け、ユダヤ人とアラブの民との和解を目指す活動の一環として同楽団を設立した。
第二次世界大戦終結、そしてイスラエル建国から半世紀以上が過ぎ、ドイツ人とユダヤ人、あるいはイスラエルのユダヤ人とパレスチナ人の歩み寄りや相互理解をテーマにした作品は少しずつ作られるようになってきたが、本作の挑戦は、新たな楽団に参加するイスラエルのユダヤ人とパレスチナ人の若者たち、それに親がナチス党員だったドイツ人指揮者という、現代に生きる3つの民族の立場と関係性を描こうと試みたことだろう。実話に着想を得たとはいえ、フィクションの力を借りた平和的解決のための思考実験と言えるかもしれない。
ザハヴィ監督がドイツで製作した本作には、ドイツのユダヤ人への贖罪、そしてイスラエル出身者としてのパレスチナ人への贖罪という、二重の贖罪意識が表れているように感じた(大戦時のユダヤ迫害がイスラエル建国の一因になったし、入植したユダヤ人によって先住のパレスチナ人の多くが家と土地を奪われ狭い自治区に押し込められている)。
若い世代が互いのこと(親の世代の体験を含め)を知り、同じ音楽を奏でることで仲間意識が芽生えていく――という筋に込められた理念はもちろん素晴らしいのだが、ユダヤ人女性とパレスチナ人青年の恋の顛末やそれに影響を受けるコンサートの行方など、やや生真面目でシリアスに寄りすぎの印象を受けた。パレスチナ・イスラエル問題を扱ったフィクションとしては、イスラエルのテレビ局でドラマ制作スタッフとして働くパレスチナ人青年の奮闘を描いた傑作コメディ「テルアビブ・オン・ファイア」(2019)があったが、複雑で深刻な問題を笑いに昇華させたあのユニークさに比べると、物足りなさを否めない。モデルになったバレンボイムの楽団は、パレスチナ自治区のほか各国でコンサートを敢行している。現実より暗い話にしなくてもよかったのに……と残念に思う。
もう一つ気になった傾向は、男性よりも女性の方を、より感情的で、攻撃的で、思慮の足りないキャラクターとして描いていること。たとえば、イスラエル人のホルン奏者シーラの女友達はオーディションに落とされ指揮者スポルクに悪態をつく。シーラはクラリネット奏者のパレスチナ青年オマルと恋に落ち、ベッドで寝る2人を自撮りして件の女友達に送り、その友達に写真をばらまかれてしまう。いくら若いと言っても、イスラエルで暮らして十代後半にもなれば、ユダヤ人とパレスチナ人が交際することに対する周囲の反応は想像できるはず。まるで「SNSにセルフィーをアップして喜んでいる若い女性の言動なんてこの程度」といったステレオタイプの性格づけがなされたのではないか。スポルクにしてもオマルにしても、押しの強い女性にそそのかされて行動したのに、目的を果たせないまま終わってしまうのが不憫すぎる。
一編のストーリとしては、物足りない。
真実、融和は図られつつあるとで言えるのでしょうか。
もちろん、いわゆるパレスチナ問題について、もちろん評論子は詳しい知見を持っている訳でもないのですけれども。
たしかに、和平コンサートが中止に追い込まれたのは、いわば偶然のできごとによるもので、団員の不和・対立が直接の原因でなかったことは疑いのないことでしょう。
現に、帰国のための空港の待合室で、期せずして合奏することにもなっているわけですから。
個々人としては他にわだかまりを、例え抱えていたとしても、音楽人としては、には国境がなかったということでしょうか。
そして、本作の楽団のモデルとなった楽団は、現在も活動しているとのことですので、こういう芸術(音楽)の切り口からだとしても、究極には両国の融和が実現する日を期待しているのは、独り評論子だけではないことと思います。
ところで、本作のモデルとなっている楽団が今日(こんにち)でも活動しているということであれば、その楽団が現況に至るまでの、それなりの苦難というのが、エピソードというのか、そういうものが、何かしらはあったのではないでしょうか。
本作は、いわば「端緒」だけを描いて、その点を描くところは全く描いていないことは、評論子には、「片手落ち」というのか、「尻切れトンボ」というのか、そんな感慨を、どうしても拭うことができないのです。
映画作品としての観点から本作を振り返ると、一篇の「物語」としては、物足りなさを禁じ得ません。
そこのところがちゃんとが描かれてこその「クレッシェンド」(次第に強く)なのではないでしょうか。
そう考えると、ラストシーンでの透明な壁が、一見すると簡単に越えられそうなのに、かつて「東側諸国」と「西側諸国」とを完膚なきほどに隔てていた鉄のカーテンのように、越えることのできない現実を鋭く表現していただけに、余計に惜しまれます。
(否、鉄のカーテンとは違って、透明で、お互いが見えているだけに、余計に始末が悪い?)
本作は、評論子が入っている映画サークルで、2022年の年間ベストテンに選ばれた作品ということで補遺的に鑑賞した一本でしたけれども。
しかし、上記の点を差し引くと、佳作としての評価も難しく、残念ながら、良作の評価に甘んずるを得ない惜し一本になってしまいました。
評論子には。
☆☆☆☆(ちょい甘) 簡単な感想で。 パレスチナVSイスラエル 和...
☆☆☆☆(ちょい甘)
簡単な感想で。
パレスチナVSイスラエル
和平交渉を取り持つマエストロは《ナチスの息子》
このマエストロが、長年に渡って民族紛争を繰り広げる2つの間に入るのですが。これがもう実に根深くてどうにもならない。
言って見れば。国家間での対立の歴史を、若者達のオーケストラを通して描いている…と言って良いのだと思われますね。
マエストロが1つ和平交渉を提案すると、一旦は何とか治るものの。お互いがまた直ぐに、違った意見・感情を露わにして敵対心を剥き出しにする。
マエストロは、過去に起きた自らの悲劇を胸に秘め、少しずつこの若者達の心の中に凍結した怒りを解凍して行きます。
何しろ過去から長い歳月に渡って繰り返えされて来た対立です。自分自身だけではなく、親から受け継がれ。その親はまたその親から受け継がれている憎しみだけに、そうは簡単には解凍などしないのです。
とても良い作品でした。しかし…なかなかシビアな内容でしたが、どうやら現実に実在するオーケストラがモデルだとか(´-`)
一応、話の骨格はシェークスピア悲劇の【あの作品】ですね。
それだけに、オーディションへ向かう道のりから始まり、合格してからも様々な難問がこの人種対立の壁となって立ち塞がる。
それゆえに、(おそらく)現実のオーケストラ内では起こっては居ないと思われるのですが。映画のストーリー展開としてシェークスピアが選ばれたのだろう…と思われました。
いよいよ来週に公開される巨匠スピルバーグと観比べるのも〝 有り 〟…なのかも知れないですね。
2022年 2月7日 ヒューマントラストシネマ有楽町/シアター1
色々と考えさせられた作品
色々と考えさせられた作品。
今も続くイスラエルとパレスチナ情勢。
2019年制作だが、今現在も通用する作品。
映画のようにうまくいくかどうか色々と
考えてみたい作品。
音楽は政治を超えられるのか
ペーターシモニスチェク扮するマエストロエドゥワルトスポルクは、イスラエルやパレスチナの若者を集めてオーケストラのオーディションを行った。しかし過激派に不穏な動きが見られた。住民感情としても戦車で家を壊す連中と一緒に演奏するのかと言われた。コンサートマスターを選んでも反発する者がいた。
何年経っても背景となるイスラエルやパレスチナの政情には疎いのが致命傷かな。二つのグループをシェアしながら違いを話し合わせる。貴方には敵意はないと。もう音楽の腕じゃなくて精神論だね。簡単にはいかないんだね。 ドボルザークの第二楽章遠き山に日は落ちてがしみじみと響いたね。音楽は政治を超えられるのかと言う事かな。主義を越えた愛も芽生えるしさ。でもまさか不幸の前兆だったとは。思い込みの激しい人生だったね。全てを踏まえた後のボレロは良かったね。
争いの連鎖
パレスチナとイスラエルの人達が纏まってオーケストラに挑戦するストーリー。
未だ争いを終わらせる事が出来ない者達に、目的を一つに絞れば協力する事が出来るだろうかをなげかけてくる。また将来を約束された若者に悲惨な結果も描かれる。
平和ボケの日本人が簡単に語れない映画ながら、最後の一筋の光である旋律は美しい。
見終わった後も考えさせれ、落ち込む映画でもあるけど秀作。
ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団
実際にバレンボイムの主導でユダヤ人とパレスチナ人の演奏家で編成されたウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団の話を下敷きに作られている。バレンボイムの音楽ははっきり言って好みではないが、これは優れた業績だと思う。そういえばイスラエルで初めてワーグナーを演奏したのも彼だ。なかなかやるね。「ほんとうのジャクリーヌ・デュ=プレ」という伝記映画ではバレンボイムは妻ジャクリーヌが病気になったらさっさと見捨てるクズ夫(おっと)として描かれてましたが笑。
さて、映画はどうか。誇張はされていると思うが、いがみ合う同士として最初は実際あんな感じだったんだろうな、ってところは面白かった。でも、融和のプロセスに違和感があるんだよねえ。あんな風にいくものだろうか。私としてはもうちょっと「音楽を通して心が一つになる」が前に出ていた方が良かったと思う。指揮者のカリスマ性が描けていないせいかも。その意味で製作者の音楽愛が足りないのだと思う。
パレスチナ青年の父親が指揮者を「ポルシェ」と呼んでいたのは皮肉が利いていて面白い。ポルシェはナチスのおとしごだからねえ。最近、「オーストリア北部リンツの市当局は15日、ドイツの高級車メーカー、ポルシェ創業者のフェルディナント・ポルシェ博士の名を冠した通りを改名する計画を明らかにした。ポルシェ博士の過去のナチスとの関係が改めて問題視されたため。市議会が年内に改名を承認する予定だが、新名称は未定という。」なんてニュースがあった。もちろん父親は「ドイツ製で高級で能力が高い」という意味でポルシェと言っているということなのだが、指揮者の父親がナチスであったという設定を踏まえて制作者がイースターエッグとして仕込んだのではないかな。
終盤の「事件」は悲劇だったな。家族も巻き込んだ民族の対立が生んだ悲劇を描きたかったのか。劇的ではあったが人物の行動もなんか腑に落ちないし、ストーリーとして不要だと思う。
一言「うわー、そう持ってく⁈」
楽団物映画、ハズレがないので好きです。
今作は、紛争が今も続くパレスチナとイスラエル。
両国の若者たちが、「和平コンサート」のために集まる。
だけど相手を罵るばかりで、練習すらできない始末。
マエストロ(指揮者)は言います。
「君たちはお互いの音を聞かない、目を見ない、心を伝えない」
これって、音楽だけじゃないよね。すっごく大切なこと。
そしてまずは同じパート同志、譜面台を共有しあい。
練習が始まっていく様。
世の中の指導者たちよ、この映画を見るんだ!。
と思ったね。
作品中に使われている曲も、聞いたことある曲が多かったのも。
親しみやすかったです。
⭐️今日のマーカーワード⭐️
「弦は銃じゃない」
このラストに待つ、セリフ抜きの魂の協奏が、パンデミックや格差による分断の時代に、ひとすじの希望の光を示す感動をもたらしてくれたのです。
“世界で最も解決が難しい”とされる紛争が今この時も続くパレスチナとイスラエルから、音楽家を夢見る若者たちを集めてオーケストラが結成されるという、現実にはあり得ない物語に見えます。しかしユダヤ・アラブ混合の管弦楽団は現実に存在しました。
本作がインスパイアされた実在の楽団とは、現代クラシック音楽界を代表する巨匠指揮者ダニエル・バレンボイムと、彼の盟友の米文学者エドワード・サイードが、中東の障壁を打ち破ろうと1999年に設立した和平オーケストラ。ゲーテの著作のタイトルから「ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団」と名付けられたその楽団には、二人の故郷であるイスラエルとパレスチナ、アラブ諸国から若き音楽家たちが集い、「共存への架け橋」を理念に、現在も世界中でツアーを行うなど活動を続けているそうなのです。
実在するこの楽団から着想を得たというのが本作です。若者たちの対立と葛藤、恋と友情を彩るのは、ヴィヴァルディの「四季」より《冬》、ラヴェルの「ボレロ」、パッヘルベルの「カノン」など誰もが知るクラシックの数々の名曲が演奏されます。
タイトルにある「クレッシェンド」とは、「だんだん強く」を意味する言葉です。音楽により生まれた小さな共振が、やがて世界に大きく響きわたっていくことがモチーフとなっているのでした。
物語は、世界的指揮者のスポルク(ペーター・シモニシェック)、実業家でボランティア活動に熱心なカルラ(ビビアナ・ベグラウ)から、紛争中のパレスチナとイスラエルから若者たちを集めてオーケストラを編成し、平和を祈ってコンサートを開くという企画を引き受けます。
オーディションを勝ち抜き、家族の反対や軍の検問を乗り越え、音楽家になるチャンスを掴んだ20余人の若者たち。しかし、当然のように戦車やテロの攻撃にさらされ憎み合う両陣営は激しくぶつかり合ってしまうのでした。
そこでスポルクは彼らをアルプスの南チロルでの21日間の合宿に連れ出します。寝食を共にし、互いの音に耳を傾け、経験を語り合うなかで、少しずつ心の壁を溶かしていく若者たち。中には国同志の対立を超えて、恋に落ちるカップルまで現れるまでに。
けれどもコンサートの前日、ようやく心が一つになった彼らに、想像もしなかった事件が起こるのでした。
本作で感銘を受けたのは、すごく繊細でリアルな演出です。タイトル通り、ユダヤ・アラブ混合の楽団は、当初絶望的なほど喧嘩が絶えない対立が描かれます。その対立を乗り越えるため、合宿中指導者のスポルクは、音楽面だけでなく、精神面でも融合を目指して対立するメンバー同志を向き合わせて、いいたいことを大声でぶつけ合わせたり、ゲームを取り込んだり、川に飛び込ませたり、忍耐強くあの手この手を繰り出すのでした。涙ぐましいほどのスポルクの努力は、少しずつ彼らの演奏の変化につながっていくのでした。 最初はバラバラだった彼らが繰り出す音は、次第に素敵なハーモニーを繰り出すのでした。たとえ小競り合いを繰り返していても、音楽には嘘がつけません。クラッシック好きなら、演奏での微妙な演出の付け方にグッとくることでしょう。
圧巻は、ラストの空港で彼らがそれぞれお互いの母国に帰るため待機しているシーン。ずっと21日間も一緒に合宿を過ごした間柄なのに、お互いに会話もなく帰国の飛行機を待っている状態でした。すると誰かが、ラベルのボレロを刻み始めます。それにつられて、ひとり、またひとりとメンバーたちが演奏を初めて、最後には全員が大団円となってボレロを演奏するのでした。まさにタイトル通りの「クレッシェンド」となったラストでした。
このラストに待つ、セリフ抜きの魂の協奏が、パンデミックや格差による分断の時代に、ひとすじの希望の光を示す感動をもたらしてくれたのです。ぜひこの唯一無二の音楽に触れられてみてください。
2本立て2本目。宗教で争い合う全ての人々に見てほしい。 この科学が...
2本立て2本目。宗教で争い合う全ての人々に見てほしい。
この科学が進歩した世で、どうして直接見たことも聞いたこともない教義を信じてしまう?目を覚ませ現代人よ!
イスラエルとパレスチナの若者が楽団を組む。もちろんそこには多くの苦難が。
どうせ最後に素晴らしい演奏で感動させるよな。そう思ってたら違った。いや、違った訳ではないのだが、予想が出来なかった。綺麗ごとで済まさない展開に驚き、そして感動。音楽の底知れぬ力も感じた。ラストもお見事。
本当にいろんな人に見て、そして語り合ってほしい作品。秀逸です。
音楽は、いい!
建国以来周囲のアラブ諸国から圧力をかけられ戦争になることも多いイスラエルと、そのイスラエルの中にあるほぼ占領されている国パレスチナという、憎しみあう両国の若者たちを集めて、管弦楽のコンサートが企画される。イスラエルはパレスチナを抑えつけ、パレスチナはテロでそれに抵抗する。そういうことが日常になっている両国の若者は、果たしてともに音楽を奏でられるだろうかという話。
当たり前だけど、うまくいきません。だって、お互いに身近な人たちが殺されたりした経験があったり、それはなくとも家族からことある毎にそういう話を聞かされているのだから。
皆を束ねるドイツ人指揮者は、ユダヤ人を大量殺戮した医者の息子。その事実は、生きている限り彼から離れることはない。
そんな彼が、自分の身の内を語り、みんなでスイスで練習キャンプを張り、あの手この手で取り組むけれど、わかりあうことはゆっくりとしか、本当にゆっくりとしか進まない。
そしてそんな中でたどり着いたコンサート前夜に起こった悲劇。別れの空港。そこで彼らが行ったことは…
パレスチナで音楽を練習するということの厳しさから始まる。催涙ガスが飛び交い、人のざわめきや怒号、サイレン、そして時には爆破音まで。そんな音に囲まれながらも、音楽家たちは、楽団のオーディションを目指して練習する。イスラエルに入る際の厳重かつ意地悪な入国検査。この検問シーンを見るだけでも価値があると思う。
ヴィヴァルディの「四季から、冬」。こんなにも、バイオリンソロと全体が響き合っている曲だと気付かないでいた。そしてラストの「ボレロ」。やっぱり音楽と映画は相性いいわ!
おまけ
モデルがある映画で、「ウェスト=イースタン・ディバン管弦楽団」という実在する楽団であり、その指揮者だということ。現実が持つ圧倒的な力。
転の部分で興醒め
民族間の長い歴史と争いの終着点を見出すのは難しい。2時間くらいの映画で結論が出るなら戦争なんてしてない…とは言えこの作品、前半はそれぞれの憎しみとどう向き合うかとか提示されていて良いのですが、転となる事象が「女子が禁止されてるスマホ写真撮影を浮かれてした挙句友達に送ったら親に言い付けられて連れ戻されそうになり無謀な逃走を企てて結果相手の男子が死ぬ」というよく言えば若気の至り、悪く言えば色ボケからの軽率な行動で演奏会ごとポシャった挙句和平交渉にまで影響が出そうという。
自分が元々「他人に迷惑をかける恋愛をする・恋のためなら何をしても許される展開」が嫌いなので、他の楽団員全員が巻き込まれているのをみると自分の恋路で他人の努力を潰すなよ…とめちゃくちゃ冷めました。
この部分が事実ならあんまり同情出来ないなあ…
ロシア兵とクウライナ兵は妥結点が見出されるか?
オーケストラは様々な楽器で構成され指揮者の下、メロディーを奏でる。まず求められるのは、それぞれの楽器の技量だ。一所懸命、つまり自分の役割を命懸けで成し遂げる。しかし本作でも言われたが、それだけでは音楽にはならない。相手の音を聴き呼吸を合わせる。協調性はありふれた言葉だが、私はそれを一緒懸命と言いたい。これが多分、この映画の主題の一つだろう。つまり異なる価値観や歴史的な背景と文化を持つ者同士が一緒に事がなせるのか、どうか。今ならウクライナ兵とロシア兵が平和を希求し、和平に向けて行動する。それは困難を極めるだろう。でも前線のロシア兵も徴兵された者なら被害者とも言える。その視点に立てば可能かもしれない。本作にも相手の存在を認識させるワークショプが数多く紹介されていた。
結局、予定されていたコンサートは叶わなかったけど、マエストロは彼らに種を撒いた。価値観を全く異なる者同士でも、相手の側に立って想像力を働かせれば妥結点が見いだせると。何れ彼らは自分たちの手でコンサートを開くだろう。それをマエストロは一生懸命、やれと送り出したと思う。
伏線として、マエストロの父親もかつてユダヤ人絶滅収容所で医師をしていた。北イタリア経由で南アメリカへ逃走を試みたが、母親とともに、途中で見つかり射殺された。
自分はそのナチの子供だ、ドイツとユダヤ。イスラエルとパレスチナ。
セパレートされた空港の出発ロビーには確かに分断線があったけど、それは透明なガラスなんだ。見ようとすれば相手の存在は見える。あのボレロの演奏の中に、一生懸命生きろという長く重い宿題が見えた。
自分ひとりの世界で弾いていた人たちが
皆と衝突を繰り返すうちに他者に想いをはせるようになる。みんなのために自分ができること。
人は過去や記憶にとらわれがちだが、まずは一歩を踏み出すこと。結果がどうあれ、それが一番大事なんだと感じさせる作品だった。
音楽映画ではない
内容がそらぞらしいと言うか、結局何も達成出来ずに戦争の傷跡とか後悔を延々と話してるだけ。
責任者も全く情熱が感じられないし。
ただ、クラリネットにこんなに感動したのは初めて。素晴らしい音色だった。
悲しいリアリティ
映画「クレッシェンド」を見る。
イスラエルとパレスチナの若者が集められてオーケストラを作る。というあらすじから、
何か予定調和なやつかなと、迷っていたのですが、
ケン・ローチを配給するロングライドだから、そんな単純じゃないだろうと見にいきました。
凄かったです。脚本や俳優も音楽も。
イスラエルとパレスチナの音楽による融和を「SFだよ」と吐き捨てる若者たちのリアリティ。
そしてその距離を縮めようとするマエストロにも暗い過去があり・・・。
おすすめです!
人がまとまるのは大変
ドイツ人の指揮者、ユダヤ人とアラブ人の楽団員
それぞれの人種がそれぞれの言い分を持ちながらも
この公演を成功させようとしていく
実際のオーケストラに映画の結末の様な事が
あったかどうかは分からないが
今現在も実在するオーケストラなので
いろいろと苦労を乗り越えてきたのだろう
映画として動と静で区別すると
静の分野かなと思うが飽きる事なく
最後まで観賞できた
クレッシェンドには感情を次第に強めていく
という意味もあるみたいなので
タイトルに思いも込められているのだろうか
音楽の力を借りて
紛争が続くイスラエルとパレスチナの若者たちが集まって、共に音楽を奏でる。それがどんなに困難なことか、綺麗事ばかりではない本作から、問題の根深さが伝わってきました。
音楽家を夢見る普通の若者でも、日本で暮らしているとピンと来ないような思想を持ち、政治と切り離しては行動出来ない。その様がもどかしく、苦しく、なかなか上手くいかないことに胸が痛みます。特にマエストロの「平和を望むか?」という問いに対し、ほとんどがNOと答えるシーンは衝撃的でした…。
それでも、目の前の相手に敬意をもって接しお互いに理解し合うよう努力することで、少しずつ距離が縮まっていく。ラストシーンの音楽の力を借りてお互いの心に歩み寄る姿には、自然と涙が溢れました。
戦争が始まってしまったいま、よりこの作品のメッセージが胸に響きます。
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