「退屈な日常に反抗するカタルシスが楽しい。」Mr.ノーバディ すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
退屈な日常に反抗するカタルシスが楽しい。
○作品全体
変わらない毎日にある程度納得しつつも、少しずつ溜まって行く小さなフラストレーション。それが日常のノイズになってきたな…とかぼんやりと考えている時に、「ハードボイルドアクション」という響きだけで見始めたのが本作だったのだけど、そんなことを考えている自分にとって本作は予想以上の劇薬だった。
序盤の月曜日から金曜日までを繰り返すシーンが、まず惹きつけられた。クラクションの音、ゴミ捨て、肩身の狭い我が家…毎日のルーティーンに潜む鬱憤を短いカットで断片的に、何度も映す。我慢できないわけではないけれど積もっていく日常のフラストレーション。この映し方が巧いし、まとわりついている感覚がすごく身近に感じて良いシーンだった。
鬱憤を晴らすかのように暴れ回るアクションには、長年のブランクが徐々に解消されて行くのが感じられて面白い。バスのアクションでは奮戦しつつもボロボロだったハッチが、次は地の利を活かし、そして武器を使って薙ぎ倒して行く。カタルシスだけでなくギミックの多彩さにも惹かれた。
爽快感よりも痛々しさを重視したようなアクションがハッチの中に積もり積もったもの、というような鈍く重いものとリンクしていて、それがまた自分の中に抱えたものとも繋がって感じられたのが、この作品が「劇薬」になった一番の理由かもしれない。
ラストはハッピーエンドで納得しようとも思ったけど、欲を言えば家庭に帰らないでほしかったな、と思った。自宅までも犠牲にして、一時は家族をも危険に晒すというリスクを承知の上でハッチが始めたことだから、家庭を拾い直して刺激をも得る、というのはちょっと中途半端かな、と。
家族が「ミスター・ノーバディ」のハッチを受け入れる理由付けがもう少し欲しかったような気もする。
それでも、ここ最近見た作品群で一番カタルシスを感じられたことは事実。
なにかを置き去りにして本能のまま突っ走ることは、リスクはあれど最高に楽しい。それを思い出させてくれるような作品でもあった。
○カメラワークとか
・アクションシーンでブレカットが少ない。爽快感や疾走感は減るけれど、重みのある痛々しさが演出されていた印象。アクションのカット割り自体は見やすかったけど、シーンで繋ぐと位置関係が分かりづらかったかな、と思った。あまりそれを重視していないから良いんだろうけど。
・回想シーンでハッチが話すハンドガンの名前を間違うシーン。間違った銃を見せて、違ったとハッチが話してカメラが戻り、正しい銃を見せる。「信頼できない語り手」をコメディチックに映像で活かした演出。これはこの作品が初出しではないけど、一体どこから始まった演出なんだろう。
○その他
・お父さんも強いっていうのが一番面白かったなあ。耄碌しているようにみえるのはハッタリだった、というのは相当な意外性。敵役2人がやってきたときには、よく見る怒りの導火線に火をつける役回りかな、と思ったけど主戦力だったというところにびっくり。