「アメリカンデトックス映画」Mr.ノーバディ garuさんの映画レビュー(感想・評価)
アメリカンデトックス映画
平凡に見える男が実は凄腕の・・・といったよくある筋書き。 男の肩書は最後まではっきりせず、Mrノーバディというタイトルのままだ。 ストレス発散を目的に作られたアクション映画である一方、アメリカ人の深層心理というか本音を描き出した面もあるように見える。 余計なことを考えずに観ても十分に楽しめるし、いろいろと穿った見方をして観ても、結構面白い作品である。
主役のボブ・オデンカークという役者のことは、正直知らなかった。 シュッとした風貌からイギリス人俳優かと思ったが、アメリカ人ということだ。 渋くてなかなかヨロシイ。 あえて見た目がイギリス人風の男を主役に据えたのも、何か意味がありそうだが、考えすぎだろうか。
目を見張るのは、バスの中でのチンピラ連中との格闘シーン。 ここで初めて男が隠していた実力と抑えていた本性を明かす。 ただし、その道のプロが職業上の技術を使って簡単に相手を片づけてしまうという、最近よくあるパターンではない。 そこに、この格闘シーンの面白さと意味がある。
男も結構やられてダメージを受けるのだが、ここはあえてやられているように見える。 結局、常識社会に生きる平凡な男という仮面は、相応の理由がないと破ることが許されないということだろう。 男は、反撃の理由づくりのために、ある程度はやられるわけだ。 手痛いダメージを受けながら怒りを徐々に募らせてゆき、バスの窓を突き破って放り出されたところで完全にブチ切れる。 そこから再び車内に戻り、もはや怯えるチンピラ達を全員、完膚なきまでにブチのめしてしまう。
やっぱり、アメリカ人は、心の底では怒っているのだ。 理由はこの際置いておくとして、とにかく、憤懣やるかたない思いを腹の底に据え、常に溜まった怒りを爆発させる機会を窺っているのである。
怒りの国、アメリカ。
作品中、その本音と本性がついに大爆発するのが、ラストの銃撃戦だろう。 はっきり言って、もうメチャクチャ。 アメリカの娯楽アクション映画には、全てをぶっ壊してしまうラストシーンが多いが、この作品の「ぶっ壊シーン」の過激度は、特Aランクである。
実は、この作品の監督イリヤ・ナイシュラーは、ロシア人である。 作品中、主人公に壊滅させられるのは、ロシアマフィア。 穿って観るに、 東西冷戦が終わっても睨み合ってきた者同士の本音が、ここに表現されているのではないか。 両国の本音は、核爆弾を使ってでも、徹底的に、死ぬまで戦いたい。 平和で平凡な日常も旧態依然とした体制も、何もかも、すべてを更地になるまでぶっ壊したい。 しかし、今のところそれはできないままでいる。 だから、映画の中でやっちゃって、とりあえず水抜きをしたーといったところではないだろうか。
ロシアもやはり、怒りの国なのである。
ということで、溜まっている人、もしくは、心のデトックスをしたい方には、是非、お勧め。