「能あるおじさんの自我が甦る」Mr.ノーバディ ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
能あるおじさんの自我が甦る
予告映像で見たおでんを持つオデンカークのイメージと違い、ただのおじさんがキレ散らかす話ではない。このおじさん、ジョン・ウィックのカウンターパートのようなものだ。こちらはかわいい仔猫と一緒。
最初に主人公ハッチの数週間の日常が、高速スイッチングで描かれたところでかなり共感を覚えてしまった。重々しい効果音で、月曜(ドーン)火曜(ドーン)以下同様に水木金、毎週一緒なんで細部ははしょります。私の日常と似ている。
そんなハッチがひょんなきっかけでどんどんはじけてゆくさまは、何故か自分自身の単調な日常にも鉄槌を下してもらっているようで爽快だった。話の展開は荒唐無稽だが、庶民的な動機からのど迫力アクションというギャップの魅力に取り込まれてしまう。
一度は現役を去ったヤバい戦闘能力の持ち主が再び覚醒する、という設定は王道中の王道だ。ただ、大抵の場合主人公は必要性や正当な怒りに迫られてその能力を発現する。
一方、ハッチが覚醒する理由の根底には、判で押したような毎日でたまった欲求不満、「現役」の頃のぎらぎらした緊張感への憧憬がある。
強盗に入られて息子が殴られてもことなかれ対応をして警官に馬鹿にされたハッチ。家族で唯一自分に愛情を示してくれる幼い娘の猫ちゃんブレスレットの盗難に気付いたことがきっかけで、彼のスイッチが入る。
覚醒したハッチは、家族を守るべき強盗遭遇時とは打って変わって、たまたま路線バスでエンカウントした不良をボコボコにオーバーキル。外連味たっぷりながら、本人もそれなりにやられるところがリアル。これが身から出た錆的に更なる敵を呼び寄せる。
オデンカークはジャッキー・チェンへの憧れがあり、製作が軌道に乗る前から2年間トレーニングをし、自分でスタントをこなしている。彼は今年58歳、アクション俳優のキャリアなし。すごくないですか?
そしてある意味ハッチより魅力的なぶっ飛びキャラの父親デビッド。クリストファー・ロイド本当にいい味出してます。
悲壮感のない、暴れたいから暴れるおじさん達のカラッとした「昔取った杵柄」系アクション。
生活に縛られて疲れた心を解放してくれる、癒し系ファンタジーのようにも見えた。