「青年期ならではの心理模様が活きた出色のミステリー」クローブヒッチ・キラー 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
青年期ならではの心理模様が活きた出色のミステリー
予期せぬ拾い物などと言うと作り手に失礼だろうか。国際的な映画賞だとか興行的ヒットに恵まれているわけでもないのに、本作はしっとり落ち着いた中に抜きんでた視座と語り口を持つ。これが単なる怖がらせ系のホラーならば殺人犯の凶行をそのまま描けば良いわけだが、しかし物語の舞台となるのは、少し目線に変化球を加えた、かつて連続殺人が起こった”10年後”。教会を中心として惨劇の記憶を乗り越えてきた小さな街で、一人の青年が日常のふとした糸口から思いがけない疑心へと陥っていく。いまだ逮捕されぬままの殺人犯をめぐるミステリーでありながら、風変わりな少女とのボーイ・ミーツ・ガール的な側面を持ち、そして何より重要なのは、年頃の主人公が親から精神的に巣立っていく心理模様が寓話的に活かされている点だろう。『コップ・カー』『スパイダーマン・ホームカミング』の脚本家クリストファー・フォードの筆致や役者陣の演技も秀逸な作品だ。
コメントする