「奇跡を可能にする作品世界」ARIA The BENEDIZIONE 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
奇跡を可能にする作品世界
そういえば『ARIA』シリーズはTVアニメ版しか見てなかったなと思い今更鑑賞。いかなる露悪も介在する隙のない唯一無二の柔和な世界観は巧みな音響効果によるものなのだなと改めて実感した。牧野由依の歌声とともに「ARIA」のロゴタイトルが出てくるOP演出は何度見てもいいですね、本当に。
本作では姫屋の「呪われた船」の逸話を契機に藍華と晃のプリマ昇格試験時のできごとが語られる。『ARIA The ORIGINATION』ではアリスと灯里のプリマ昇格試験の様子が丁寧に描写されていたが、そういえば藍華のそれは割とあっさり片付けられてしまっていた。
姫屋の令嬢として生を受けてしまった藍華にとって、その輝かしい血筋はある意味で呪いとして機能していた。それゆえ、彼女は公式に定められたプリマ昇格試験に合格するだけでは一人前のウンディーネとしての自負を持つことができない。そこで晃が個人的に設定した試験をクリアすることをもって試験合格としてほしい旨を晃に伝える。
そこで晃が出した課題がこれまた面白い。夜明けまでに、薔薇の花を持って水路沿いを逃げ回る晃から一度たりとも船を離れることなく薔薇を奪うというもの。晃は幾度となく藍華から薔薇を奪われそうになる。そのたびに、藍華の水先案内人(ウンディーネ)としての成長ぶりを実感させられる。
夜明け前、遂に藍華は晃から薔薇を奪う。奇しくもその場所は、晃がプリマ昇格試験に合格した場所だった。
こういう個人的な奇跡が普遍的な奇跡のように映える作品は本当にすごいなあと思う。奇矯なアクロバットに走ることなく地道に誠実に優しい作品世界を築き続けてきた『ARIA』の粘り勝ちだ。
本作でシリーズ終了ってマジのマジなんですか…?泣