「70点」バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
70点
アーサー・コナン・ドイル著『シャーロック・ホームズ』を翻案したTVドラマ『シャーロック』の劇場版らしいが…、
いつドラマやってたの…??
同じホームズ翻案ドラマなら亡き竹内結子主演の『ミス・シャーロック』は知ってるが…。
こちらの主演、ホームズに該当する探偵を演じるは、ディーン・フジオカ。ワトソンに該当する相棒を演じるは、岩田剛典。
如何にもなイケメンバディだが、傍若無人で風変わりだが頭がキレる探偵役のフジオカはハマっており、受け身のガンちゃんも好演。
原作でも傑作と名高いエピソードを原案にして映画化。タイトルは聞いた事あるが、詳しい話は知らず。
言うまでもなくTVドラマは見てないが、西谷弘監督による和製ホームズと話の面白さ、その点にのみ惹かれて鑑賞。
瀬戸内海の離島。
資産家当主の不審死。
島に伝わる魔犬の祟り。
資産家の過去の罪、犯人の悲しき動機…。
まるで横溝ミステリーみたい。
そこに惹かれた。
いざ見てみたら、横溝ミステリーのようなおどろおどろしさには程遠い。
イケメン探偵がスマートに謎を解明していく現代的ミステリー。
期待以上ではなかったが、かと言って期待外れではなかった。
ちと難点はあるが、英国ミステリーを日本を舞台に置き換え、なかなか面白く見れた。
TVドラマを見てなくても一本のミステリーとして見れるのは有り難かった。
満点ではないが、70点といった所。
Wikipediaで原作を簡潔に調べてみたら、大胆翻案しているものの、一応基は沿っているよう。
“バスカヴィル”を“蓮壁”という性と飼い犬“ヴィル”に文字ったり、“ベリル”の名のリンク。
前半はワトソン=若宮メインで動く。彼が目の当たりにする恐怖の体験、第二の殺人…。
ホームズ=獅子雄は早々と別行動。独自の調査。
靴に執着する飼い犬、ある人物の入浴を覗いてみろ(実は、その人物のあるものを見せる為)、“説教タイプ”…これら“?”も後々のヒントに。
ぎくしゃくした関係の資産家家族。母親は息子に甘く、母親も息子も長女に冷たい…。
屋敷に出入りする地震を研究する大学准教授、リフォーム業者夫妻…。
獅子雄は早々と目星を付け、これらを鮮やかに繋げ解明していくが、名推理過ぎて、一体どのタイミングで確信に至ったのか…?
ちと腑に落ちない点もあったが、事件の真相=犯人の動機はこの手のジャンルならではの醍醐味があり、引き込まれるものがあった。
リフォーム業者夫妻。過去に幼い娘を何者かに誘拐されていた。
何年も何年も諦めずに探し続け…、遂に見つけ出す。
成長はしても目は変わっていなかった…。それが確かかは分からないが、親の執念を感じる。
娘は、資産家の長女として暮らしていた。
リフォーム業者として屋敷に入り、接近。密かにDNAを入手し、結果は実の親子である事が証明された。
歓喜する夫妻。
ある時遂に打ち明ける。
資産家の娘として裕福に暮らしていたから受け入れなれない…と思いきや、
受け入れる。夫妻の計画にも加担する。
その心境が不可解でもあったが、理由が明かされる。
暮らしぶりは裕福でも、幼い頃から愛されていなかった。孤独だった。
その訳が分かった。
私は他人の子。
蓮壁家を許さない。
誘拐したのは無論、蓮壁家。
罪でもあり、悲劇でもある。
当主が仕事で外出中、妻がうたた寝していた最中、長女が風呂で溺死。
愛娘を失った事、夫からの怒りを怖れた妻は激しく狼狽。
そんな時、偶然見かけた幼い女の子を連れ去る。父親がうたた寝している隙に。
愛そうとしたが、愛せない。他人の子だから。
妻と事情を知る執事の二人の絶対の秘密であったが、当主に知られる。名家の失墜を危惧し、口外を禁ずる。
やがて息子が産まれ、愛情は息子一人に。
疎外される“他人の子”に愛情を注いでくれたのは、執事。父のように慕う。
実の両親の悲しみ。広末涼子と渋川清彦の好助演。
資産家の罪。傲慢な西村まさ彦、精神不安定の稲森いずみ、ふてぶてしい村上虹郎。
振り回された娘。新木優子の魅力。
執事の苦悩。実直な椎名桔平。
ある想いを抱く准教授。ピュアな小泉孝太郎。
各々の思惑が交錯。キャスト陣のアンサンブル。
“魔犬の祟り”の由縁。墓地に初めに入ると祟られる為、黒犬を最初に殺して入れる風習から。
登場人物たちも何か悲しみを背負い、何か罪を犯し、誰かの為にそれを被った。
伏線張ってあったとは言え、ラストの大地震は唐突。だがそれは、
黒犬の罪深き者たちへの戒め、悲しみ深い者たちのせめてもの解放。
祟りをなぞるかのように。