「うたた寝が結んでしまった「二つの悲劇」と言うことなんでしょうが…」バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版 Uさんさんの映画レビュー(感想・評価)
うたた寝が結んでしまった「二つの悲劇」と言うことなんでしょうが…
シャーロックのテレビドラマシリーズは、観ていません。また、コナン・ドイルの原作も読んでいません。
予告編で突っ伏して慟哭する探偵の姿が出てきて、「この謎解きを後悔する」とナレーションが入る。ここは煽りとして心地好かったです。
恐怖に満ちた魔犬伝説の裏に隠された、愛憎と欲望の謎……みたいな、おどろおどろしいホラー寄りの正統派作品の予測で観始めました。
◉怖くない魔犬
あの魔犬の光る瞳は、ヤマネコかイタチにしか見えなかったです。視覚・聴覚・触覚などに訴えて、強烈に描かれていいはずの魔犬の恐怖が出てこない不思議な展開。黒い危険な生き物に仮託したホラーのイメージが全く膨らんでこない。犬の身代わり伝説とは言っても、墓地に恨めしげな犬の像はないでしょう。
そして廃鉱山は、この作品の重要なポイントであるのは分かりましたが、罠や野生動物、極寒の危険ゾーンに「深夜」に出かけた長男の真意は何? 鉱山の一か所に大金と遺言書が有ることはオープンになっているのだから、単独行の意味がよく分からなかった。
◉目が口ほどに語りすぎる
誘拐に紛らせて恋する相手を救おうとした、地震研究者の行動は、こうした作品にはちょうど良いエピソード。また最後、罪は罪だからとして地震に身を任せる親子の結末も、怨念の強い物語にはふさわしく感じました。
しかし、目は大きさが変化しないから、3歳児と若い女性でも同一人物と分かると言うのは、本当ですかね。洗面所で母である冨楽朗子が、生き別れになった紅に気がついたあたりで、観客としてちょっと置いてきぼりにされた感。
あの紅の狼形の痣は最初、話の流れにもふさわしくてドキっとしたのです。ここは、この痣から辿り着く展開にして欲しかった。
その紅の人格についても、事実が明白になって蓮壁家に対して恨み骨髄であるとは言え、財産も全て奪うのよと一気に戦闘モード。ここはためらってからにした方が、紅の不幸な境遇に対して、哀しみは増したと思います。
◉親ならば、うたた寝しないこと
幼児の事故死や誘拐と言った重たい出来事は、フィクション中であるならば因縁や愛憎に連なる素材ですが、この作品みたいな繋がれ方をすると、苦笑になってしまう。
うたた寝して子供を溺死状態にした母親が病院に向かう途上で、同い年ぐらいの幼子を発見。ここで先行する遊園地のシーンに重なって、そこにはうたた寝する冨楽の父親が居た。こんなドッキリみたいな展開!
◉俳優陣はミステリーらしく重厚
因縁、欲望、怨念が降り積む、渦巻くと見せかけて、裏でゴソゴソやっていただけと言ってしまえば、言い過ぎですか。
ただ、俳優陣は役柄の軽重や展開に関わらず良かったです。役者と物語が乖離していたと言う訳ではなく、皆さんミステリーの風をまとって演技していたように感じました。
ところで種明かしシーンで、いくらプライベートに近い案件とは言え、警察署長が応接スペースのテーブルに腰掛けて会話するでしょうか?
一つ。冨楽「朗子」は「狼子」だったりして。