「犬神家と目玉おやじの意外な関係」鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
犬神家と目玉おやじの意外な関係
題名通り、鬼太郎誕生秘話でした。驚くことに舞台となった哭倉村の雰囲気や、騒動の中心にあった龍賀一族は、横溝正史の傑作を市川崑監督が映画化した「犬神家の一族」の丸写しでした。哭倉村にはちゃんと湖もあって、物語の重要な舞台となるところも同じだったし、冒頭の部分で龍賀家の当主・龍賀時貞の遺言書が読み上げられるシーンも、序盤で犬神佐兵衛翁の遺言書が読み上げられる犬神家と同様。屋敷の中の大きな広間に一族が集まり、上座の壁に当主の写真が掲げられていた構図や、遺言書に不満を持った一族が騒ぎ出すのも寸分違わず一緒でした。さらに物語の一番の鍵となる龍賀家の富の源泉が、日清、日露、大東亜戦争などの戦役で使われた「M」という血液製剤であるらしいという部分も、犬神製薬が戦争中に軍部に麻薬を納品して財を成したことと完全に重なっていました。
勿論本作は鬼太郎物、妖怪物であり、中盤以降ちゃんと妖怪たちが大活躍する訳ですが、横溝正史のおどろおどろしい世界観は、妖怪物一歩手前の世界を描いていたとも言えるので、金田一耕助ファンとしてもこの世界観は中々楽しめました。
内容については、鬼太郎誕生までの物語ということで、鬼太郎は主人公ではなく、後の目玉おやじである鬼太郎の父・ゲゲ郎と、水木しげるの分身である水木の2人が主人公でした。本作の水木は、水木先生のように片腕こそ失っていないものの、南方戦線で散々な目に遭って復員した経歴を持っていました。この辺りは水木先生の「総員玉砕せよ!」からの挿話であり(「総員玉砕せよ!」では水木先生の分身たる丸山は戦死してしまいましたが)、水木が鬼太郎の父と出会い、ともに戦い、そして生まれたばかりの鬼太郎を助けるという流れは、現実と虚構の融合そのもので、かなり胸アツな展開でした。
映像的には犬神家路線を踏襲してか(?)、かなりおどろおどろしいハードボイルドなタッチで描かれており、怪奇物の王道を行っていた感じでした。ただホンワカした感じの鬼太郎に慣れ親しんでいた者としては、意外な感じもしたものの、犬神家のアニメ化みたいな面白さもあってあまり気になりませんでした。
一方音楽としては、「ゲ・ゲ・ゲゲゲのゲ~」が殆ど流れず、これはチト残念でした。まあこの曲を全面に出してしまうと、ハードボイルド路線じゃなくなってしまうので、世界観を統一するためには仕方なかったのでしょうかね。
そんな訳で、鬼太郎ファンとしても犬神家ファンとしても楽しめたので、評価は★4とします。