クーリエ 最高機密の運び屋のレビュー・感想・評価
全178件中、81~100件目を表示
裏切りとは何か
東西冷戦高まりし頃、一介の英国人ビジネスマンが何の因果か、英米両情報機関の依頼でスパイであるソ連高官との連絡役を引き受ける。
序盤、主人公がカバーである本業(ソ連への工業機械輸出)で対象者(国家科学委員会の職にあるGRU大佐)と接触を重ねながら親交を深める過程が軽妙に描かれるが、次第に家族にも秘密に活動することの重圧に苛まれていく。
主人公が内容を知らずに仲介していたのは、ソ連軍戦力の実態、そしてキューバへの核ミサイル配備の情報だった。
スパイに発覚の危険が及ぶと、英側は彼を容赦なく切り捨てようとする。彼の身を案じた主人公は一家を亡命させようと米側を頼って作戦を立てさせ、自らも計画を伝えに乗り込むが、作戦は失敗しスパイとともに主人公は逮捕される。
終盤は主人公の過酷で悲惨な拘禁生活の描写が続く。主人公は長期の拘禁を耐え抜いて捕虜交換で釈放され帰国し、スパイは処刑される。
どちらも実名で登場する英国人グレヴィル・ウィンとソ連人オレグ・ペンコフスキーの物語は事実に基づくという(どこが脚色なのかは私には分からない)。
ペンコフスキーが西側に情報を提供するようになった動機ははっきりとは描かれないが、西側との全面対決を辞さないフルシチョフの姿勢に切迫感を持ったことは語られる。
彼は紛争のエスカレーションを防ぐという自分の信念で情報を漏らし、彼の情報のおかげでキューバ危機は戦争に至らず回避されたという。だがそれは西側から見た評価であって、彼の最期はソビエト国家への反逆者としてのそれだった(銃殺されたとも、生きたまま焼かれたとの説もある)。
ウィンもまた、英国民として英情報部にこれ以上の関与を止められてもなお、ペンコフスキーを救おうとした。そして当然、ソ連側から見れば彼は体制を破壊する違法行為に関与した犯罪者である。彼が処刑されなかったのは保険が効いた(情報の中身を知らされていなかったので、厳しい尋問にも関わらず運び屋(クーリエ)以上の共犯であると立証できなかった)からに過ぎない。英国側は彼を解放させるために強い行動はとらなかった(理由はそうすれば彼が「重要なスパイ」だと示唆することになり、前記の保険が効かなくなるからと語られているが、それは「そうまでする価値がない」からともいえる)。結局、二人とも自分の良心に従って行動し、個人としてその帰結を甘受したといえる。
作品を観てからしばらく、何を書きたいのかもやもやしていたのだが、今日観た「コレクティブ 国家の嘘」や昨年の「ジョーンの秘密」とも併せて感じることは、たとえ愛国心があったとしても、国家の利害と個人の意思はかならずしも一致しないし、個人の良心に基づく行動を政府の立場に反しているからと一方的に「裏切り」と断罪はできないということだ。これは組織の内部告発でも、国を「貶める」報道でも同じだろう。
国の立場と異なる発言が命の危険につながる国は今も数多く、そうでなくても「嫌なら国を出ていけ」といった言説が日常的に飛び交っている中で、時にルールや空気を破ってでも、命をかけてでも声を上げる人がいると知ること、そう言える場を守ることが大切なのだと思う。
余談だが、ペンコフスキーがいつか国を出たらモンタナに住みたい、と語るシーンがあり、「レッド・オクトーバーを追え!」でボロディン副長が同じことを言っていたのが思い起された。メタ的には(全くの憶測だが)ウィンの自伝か何かにこの発言があったのを借りたのかと思うが、実は自伝がアングラでソ連国内に出回っていて、ボロディンがそれを読んでいたと想像すると楽しい。
男同士の友情が世界を救ったのかもしれない
一介のセールスマンだったウィンが、「ソ連に行って仕事の関係を築いてきて欲しい」とMI6からの依頼を受ける。
最初は普通の仕事の延長だと思ってやっていた事が、情勢の変化によって段々重要な役割を負わされるようになる。
自分は本当に社会の歴史・情勢に疎いとつくづく感じさせられた。
”キューバ危機”さえ、それが何を意味するものなのか知らなかった。
まあ、そんな私のような普通の人間が、どんどんスパイ活動の中核に入っていってしまう話です。
こんな裏側があったとは。
キューバ危機や、冷戦時代など教科書で習ったくらいしか知らなかったが、当時(今も?)ニュースの裏には、かなりなスパイが活躍していたのだろうと、映画を観て実感した。
ペンコフスキーも助かってほしかったが、まぁ殺されますよね。
ウィンとペンコフスキーが捕まったあと、二人が手を繋ぎつつ別れるシーンは大変鬼気迫るものがあった。
広い意味で、世界を守り、家族をも守ることができた二人の友情に感動した。
【”世界の全てが、平和になるために・・。そして、政治思想の壁はいつ無くなるのであろうか・・。”米ソ冷戦期の「キューバ危機」回避のために行動した英国とソ連の崇高な二人の姿をスリリングに描いた作品。】
ー 今作で象徴的に描かれるバレエ観劇のシーンが印象的である。
東欧を行き来する英国人商人ウィン(ベネディクト・カンバーバッチ)が、GRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)の重要なメンバー、オレグ・ペンコフスキー大佐(メラーブ・ニニッゼ)と共にロシアの劇場で「白鳥の湖」を観劇し、終演の際、他の観客と同様に椅子から立ち上がり、”ブラボー!”と叫び、拍手するシーンである。
この「白鳥の湖」を観劇するシーンは二度描かれる。
一度目は、オレグ・ペンコフスキー大佐が、米ソの冷戦状態を憂い、且つフルシチョフの直情的な言動を近くで見ていたからこそ口にした”あの男が核のボタンを握っているのは、危険だ・・”と言う思いで、重要な手紙をCIAに届け、CIAとMI6の協力により、ウィンとの距離を縮めるために「白鳥の湖」に誘うシーン。
二度目は、二人の身が危うくなった状況で、ウィンが単身ロシアに乗り込むシーンである。
□この二つのシーンを見て思ったのは、
”文化の壁は異なる思想を持っていても越えられるのに、何故、政治的な壁は越えられないのであろうか・・。”
という事である。
◆感想
・ソ連が崩壊し、冷戦という言葉は、表面上は使われる事は激減した。
だが、この作品は当時の冷戦状態のソ連と米国が、”核武装競争”をキーに、激しく対立する姿を、英国の商人ウィンとソ連のGRUの崇高な思想を持つオレグ大佐が、二人の大切な家族を愛する姿と共に、距離を縮め、大切な友となって行く過程を、スリリングに描いている。
ー イントロで流れる、”実話である”と言うテロップの重さが、見ているうちにドンドン増してくる。
そして、CIAとMI6が裏で様々に動く姿を描くことで、現代でも世界のあちこちに、”冷戦”が存在する事も、暗喩している。ー
・観る側に、二人の行為を”大変に崇高なモノ”として、劇中頻繁に登場する、ウィンとオレグ大佐の愛する妻と、幼き子供たちの姿が、この映画に重みを与えている。
ー 愛する妻、幼き息子、娘がいながら、世界の安寧、平和を願い、危険な行為に身を投じる二人の姿。ー
・又、最初は嫌々ながら(それはそうだろう・・。)ソ連側から得る機密情報の伝達役(クーリエ)に仕立て上げられたウィンが、何度も、モスクワ往復を繰り返す。心配する妻の姿。最初は”浮気だと思っていたが・・。
ー この前半のシーンも、最後半のウィンと妻の再会のシーンに効いてくる。ー
・そして、友になったオレグ大佐と家族を亡命させるために、彼が、単身モスクワに乗り込むシーンは心に響く。
ー ウィンの心が葛藤と共に、変遷していく様を、ベネディクト・カンバーバッチが絶妙に演じている。ー
・二人の行為が、KGBに漏れ、ウィンは独房に繋がれ、オレグ大佐は亡命寸前に家族の前で囚われるシーン。
ー 特に、KGBのウィンに対する処し方は、苛烈に描かれる。
久々に会った妻が見た、異常に痩せこけたウィンの姿。
当時のKGBの恐ろしき組織の片鱗が伺える。ー
<KGB幹部たちが盗聴する中で、再会したウィンとオレグ。
オレグは拷問により力なく、それでもウィンを思い
”ウィンは運び屋として利用しただけだ・・”
と話すが、オレグの真意を見抜いたウィンがオレグに対し、何度も叫んだ言葉。
”君は、世界を救ったのだ!””君は、世界を救ったのだ!”・・。
今作は、処刑されたオレグが遺したメモから明らかになった実話であるそうだが、米ソの冷戦下においても、人間性を失わなかった二人には、深く敬意を表します。
そして、今作は製作にも関わったベネディクト・カンバーバッチ出演作品の中でも、ベストアクト作であると、私は思います。>
キューバ危機の裏話です。
原題は、「THE COURIER」で、国際宅配便という意味です。
邦題は、「クーリエ:最高機密の運び屋」です。
邦題の方が分かりやすいです。
60年前くらいのお話です。
日本では、池田勇人が首相を務めていた頃です。
事実を元にした映画ですが、事実を知らないと理解できません。
1960年代がどのような時代なのかを理解していないと、理解できない映画です。
映画「チェ 28歳の革命」、映画「13デイズ」と映画「JFK」を鑑賞したことがある人には理解できるでしょう。
嘘みたいな本当の話です。
それでは、年表です。
1953年9月7日、ニキータ・フルシチョフが、ソ連の最高指導者に就任しました。
1953年から1959年にかけてGRUのピョートル・セミョノヴィッチ・ポポフ陸軍少佐がCIAに寝返って大量の秘密情報をもたらしました。
1959年1月1日、キューバで、カストロ率いる革命政権が成立しました。
映画「チェ 28歳の革命」を鑑賞すると理解できます。
1959年1月、ピョートル・セミョノヴィッチ・ポポフ陸軍少佐は処刑されました。
1960年6月、オレグ・ペニコフスキー大佐は、モスクワで数人の米国人観光客に声をかけ、米国大使館に手紙を渡すよう依頼しました。
1960年12月19日、キューバは、ソ連との共同コミュニケを発表し、共産主義の一員であると、世界に向けて宣言しました。
1961年1月3日、アイゼンハワー米国大統領は、キューバに対して、国交断絶を宣言しました。
1961年1月20日、ジョン・F・ケネディは、米国大統領に就任しました。
1961年、米国政府は、トルコに射程距離が2,400kmで、中距離弾道核ジュピター・ミサイルを配備しました。
1961年4月、オレグ・ペニコフスキー大佐は、出張でロンドンに赴いた際にMI-6に採用され、「ミノックス」という小型カメラによって、彼は111本のフィルムに5500もの文書(7650ページ相当)を撮影しソビエト軍の現状、ドイツ駐留ソ連軍、中ソ関係、ソビエト政権上層部の雰囲気に関する極秘情報を流しました。
1961年8月13日、東ドイツは、東西ベルリン間の通行をすべて遮断し、西ベルリンの周囲をすべて有刺鉄線で隔離し、コンクリートの壁を作りました。
1961年10月30日、ソ連が北極海のノバヤゼムリャ島の上空から爆撃機で水素爆弾が投下され、高度4000メートルで爆発させました。
1961年末、KGBは、オレグ・ペニコフスキー大佐がスパイ行為を疑われていた英国の大使館員アナ・チザムと一緒にいる姿を目撃しました。
KGBは、一年間オレグ・ペニコフスキー大佐を監視し、やり取りを明らかにしました。
1962年10月、KGBは、オレグ・ペニコフスキー大佐と諜報連絡員であるグレヴィル・ウィンを逮捕しました。
1962年10月16日、ジョン・F・ケネディ米国大統領は、キューバに射程距離が2,400kmで、中距離弾道核ミサイルであるSS-4を見つけ、キューバ危機が始まります。
1962年10月28日、ソ連のニキータ・フルシチョフ最高指導者は、モスクワ放送を利用して、キューバから中距離弾道核ミサイルであるSS-4を撤去すると発表しました。
映画「13デイズ」を鑑賞すると理解できます。
1963年4月、米国政府は、トルコから中距離弾道核ジュピター・ミサイルを撤去しました。
1963年5月16日、オレグ・ペニコフスキー大佐は、銃殺されました。
1963年11月22日、ジョン・F・ケネディ米国大統領は、暗殺されました。
映画「JFK」を鑑賞すると理解できます。
1964年4月、グレヴィル・ウィンは、ソ連の諜報員であるコノン・モロドゥイと引き換えに、釈放されました。
1964年10月10日、東京オリンピックが開催されました。
1964年10月14日、ニキータ・フルシチョフは、ソ連の最高指導者を辞任しました。
米国は、キューバと国交を断絶したままです。
北朝鮮は、核ミサイルを保有し、日本全土を射程距離に収めています。
キューバ危機は終わりましたが、日本の北朝鮮危機は終わりません。
平和ボケした日本人は、北朝鮮の核ミサイルのことさえ気にしていません。
キューバ危機にも絡む冷戦裏話
実話に基づくストーリーだけに、十分面白い。あのキューバ危機の前から最中に至る時期なので、こうして鉄のカーテンに小さな穴が開いていたのかと感慨深い。冷戦は終わったが、国家が個人を犠牲にしても進む恐ろしさは変わらないが、祖国を裏切っても情報を流していたソ連軍人が、自分の未来のためにやっていたのか、世界平和のためにやっていたのかは、得心がいかなかった。人はそこまで無私になれるのだろうか。
地味だけど見応えのある一本でした
派手なアクションも、大どんでん返しもないけど、
最後まで引き込まれて、退屈せずに見れました。
特にベネディクト・カンバーバッチの迫真の演技!
激痩せ!!
そこまでするかー!な役者魂を見せつけられました。
やっぱ、ここで頬にシャドー入れて「やせましたよ〜?」で済ませるか、
実際にゲリ痩せして見せるかで、リアリティ度が全然違って来ますからね。
尊い犠牲の上に…
1962年、キューバにソ連の核ミサイルが配備された所謂キューバ危機の裏で、核戦争勃発を防ごうと動いた諜報機関と、それに協力することになったセールスマンを描いた物語。
ソ連の大佐だが、激情型のフルシチョフの手中に核ミサイルがあることに危機を覚え、アメリカにその機密情報を渡すペンコフスキー。CIAとMI6は、この世界の危機に立ち向かう為、敢えて素人のウィンをモスクワに送り込もうと考えたことから物語は始まる。
題材が題材なだけに、もうちょっと緊張感が欲しいと思った序盤も束の間、中盤からは世界の存亡をかけた諜報作戦が静かに、それでいて熱く展開されていく。
今でこそ、皮肉にも「核があるから核が使われない」といった、一般的な考え(と言っては語弊があるかもだが)が持たれているが、60年代当時、目と鼻の先に自分たちに照準が向けられた核ミサイルがあるという状況は、人々にどのように映ったのだろうか。
何て言ったって、大統領がテレビで国民にこの事実を伝えていましたから。このあたりの緊張感は半端じゃない。緊急事態宣言…ってレベルじゃないですよね。勿論他国も他人事じゃない。
国を超えた友情が生まれ始めたウィンとアレックス(ペンコフスキー)。いよいよ感づき始めた国家。
地下駐車場でのやりとりのシーンは胸がアツくなった。
そして最後は涙が溢れそうになった。アレックスが守ったのは、世界だけでは無かったんですね。
キャスティングも素晴らしかったですね。個人的にはフルシチョフが良かった。少ない出番の中でも垣間見える怖さがお見事。
欲を言えば、海上封鎖とか、ミサイル撤去に至るまでの国家間の緊迫したやりとりなんかがじっくり観れるかと期待したけど、そもそもスパイ達に焦点を当てた作品ですからね。
キューバ危機と言えば概要は知っていたけど、紛れもない歴史上最大の危機。改めて恐ろしい出来事ですね。キューバの核は撤去されたけど、条件としてトルコのミサイルも撤去されたわけですから、結局はミサイル配備したソ連にプラスになった結果ということなのかな。
まぁそれを言ったらそもそもトルコに…って意見も出るし、この問題は本当に答えが出ないですね。
数々の尊い犠牲のうえに存在する現在の世界をみて、ウィンやアレックス達はどう思うだろうか…。
改めて深く考えさせられる作品だった。
ジョンブル魂?
国家間の諍いに民間人が巻き込まれてしまった。冗談じゃない。軍人や国家諜報機関の人間なら、そりゃ覚悟もあるかも知れないけど…。
これが実話で、しかもあの有名なキューバ危機の裏側。
この主人公はすごい人だ。英国人は本当にジョンブル魂、いざとなると底知れぬ不屈の精神があるのかなぁ。
しかし、フルシチョフは本当に危険な人だったんだろうな。そばで見ていた大佐が、彼が核のボタンを握っていることを、自分の危険を省みず告発することを決意させるのだから。
スティングのラシアンズという曲を、ちょっと思い出してしまった。
平和な時代
昔のスパイ物を見ると現在の平和な時代に感謝すると共に、昔は平和だったな、とも感じる。
機械と機械の繋がりではなくスパイ同士も人と人との繋がり。もちろん綺麗事ではなく裏切り裏切られ亡くなっていった方の方が多いだろうし、お話なので綺麗に見せてる部分の方が多いとも思うが、コンピュータで衛星見ながらボタンポチ、爆弾ドーン終了。ではない時代。スパイ道具もなく、携帯すらなく手紙は電報。会って話して交流を深めて。
家族と平和を願い命をかける話。
派手さはないけどこの時代に頑張った人たちがいるからこそ今がある。まあ、今この世界は平和とは言いがたく、同じように紙一重の世界だけども。
きっと誰もが平和を願っているのにな、と思わずにいられないお話でした。
アクションなきスパイ映画
静かに緊迫感が伝わるアクションなきスパイ映画。
こんな史実があったのか⁈と驚かされた。
カンバーバッチの演技は必見。
しかし最も賞賛されるべきはソ連人の処刑されたスパイ(名前を忘れた…)だと思っしまったが…。
冷戦期のこの時代は 4分で核シェルターに避難する なんて会話がある...
冷戦期のこの時代は
4分で核シェルターに避難する
なんて会話があるほど
緊迫した状況だったんですね
ソ連高官ペンコフスキーからの
情報提供がなければ
核戦争を防げなかったかもしれない
最愛の家族や多くの人を救うために
命賭けで行動し耐え抜いた
ウィンとペンコフスキー
2人の勇気と友情に胸が熱くなった
吊り橋を歩いたセールスマン
前半の軽快とも見えた緊迫感が、後半一気に重苦しい空気に変わってしまう。平和には、大きく悲惨な代償が必要とされるのだと言う感傷。
そしてシネマは、そこをよくテーマに取り上げるが、実際、何十億分の1かの奇跡に、世界は委ねられることもあるのだと言う悟り。この次の一瞬に、別のクーリエがしくじれば、世界が変わってしまうかも知れない。
当たり前だが、ロシア軍情報部の軍人と英国のセールスマンの決心は、天地ほどの隔たりがあった。
ニニッゼ演じる情報部高官は、その評価も分かれているようですが、核戦争の危機を誰よりも目の当たりにして、情勢に後押しされて腹を括った。「我がロシア軍」はもうヤバい。彼の情報の抜き取りや受け渡しは割にシンプルで、フィクション化=形式化されていたように思えましたが、クーリエと言うレシーバーを得て膨張した軍人の熱情は、静かだが迫力そのもの。
時折り見せる笑みが、命を捨てる覚悟を決めた武士のようだった。
一方のカンバーバッチ演じる腕っこきセールスマンは、要するにCIAとMI6に騙された男がでかいセールスの一つをこなすつもりで、情報の受け口になって、現代史の大役を果たしてしまったのですね。無論、ニニッゼの男気に呑まれた結果ではありますが。
それでキューバ危機を乗り越えられたと認識すれば、やはり世界の裏側の動きに、何も関われなくても、震えなさいと言うことになる。
飄々と淡々と役割をこなしながら、少しずつことの重大さに気づき、いや俺が渡っているのは鉄橋であって、絶対に吊り橋じゃないよなと、腹の中で静かに言い聞かせているようなカンバーバッチ。
その、時に落ち着かず、時に思い詰めた表情が秀逸だったと思います。
平和と友情と犠牲。
実話ベース。
実在の人物でエンドロールまえにチラッと当時のインタビューが流れます。
主人公は単に巻き込まれただけだが、ソビエト側のパートナーとの間に友情うまれ、理想を共有する様になる。
この辺に実はこの話のテーマがあるような気がする。
後半は少々重くなり、カンバーバッチも役作りのために10kg以上減量したそうだ。
世界平和のために心をすり減らしているのに過去に浮気の前科があるので奥様からは「ソビエトに女が出来た」と思われたり苦労も多い。
何故か帰って来ると「夜が激しい」話は笑った。
一発の銃声もないエスピオナージの本道
こんなに見応えのあるスパイ映画を観たのは、久しぶりです。60年代の冷戦下の空気感を再現し、銃撃戦もなくナイフすら閃かず、音楽や照明を効果的に使いながら、終始緊迫感あふれるタッチでグイグイ話が展開します。米ソの核戦争を回避させた、平凡な人々の非凡な活躍を決してヒーロー的に描くのではなく、友人のために危険に身をさらす主人公の心意気にジーンときました。カンバーバッチが上手いのは言うに及ばす、ロシア人将校役のニニッゼも魅力的な名演でした。
カンバーバッチが素晴らしい
イギリスの海外出張がある平凡なサラリーマンが、ロシアとアメリカの運び屋へ、男同士の友情を交えての実話。
キューバ危機は有名な歴史だけど、アメリカでも「4分前警報」がニュースになってたり、地下シェルターをイギリスでも作っていたとは知らなかったです。いや、本当に4分なんて、無理、無理。しかも核だし。
ロシアでは誰をも秘密警察と思えーとのことで、盗聴、口唇術、など見張られ感が半端ない。国に叛いたら、即刻処刑だし。
いよいよマークされたと分かり、任命も外されるが、なんとかペンコフスキーを国外へ逃亡させたいが為に、危険を承知でモスクワへ飛ぶウィン。M16のエミリー(とても美人で勇ましい!)と協力したのだが、あと一歩の所で、、、ロシア、オソロシヤ、、、
拷問と劣悪環境の監獄。(食事のスープ、丸いのはネズミの眼球だとか?)激ヤセのカンバーバッチ、俳優魂ですね。
何十日かぶりのシャワーのシーンも、とても良かった◎
あと、盗聴を防いでエミリーとの会話をするシート盤がなぜか懐かしかった!
昭和の雑誌の付録で、ペロンとめくれば、書いた文字や絵が消えるやつです。笑
奥さん役のジェシーバックリーさんは、『ジュディ』では金髪で秘書役だったので、全く印象が違いました。
何もかも、見応えのある映画でした!!
全178件中、81~100件目を表示