劇場公開日 2021年9月23日

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「事実は小説を凌駕する」クーリエ 最高機密の運び屋 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5事実は小説を凌駕する

2022年2月16日
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鑑賞方法:DVD/BD

興奮

知的

単なる商談と思ったら、違った。
スパイになって欲しい。
もし、そう言われたら…?

映画のような話だが、これもまた“事実は小説より奇なり”。
CIAとMI6から依頼を受け、スパイ任務を行い、キューバ危機回避に貢献したイギリス人セールスマンの実話。
スパイ経験が一切無いどころか、スパイでも何でもない一般人がスパイに…!
驚きもさることながら、リアル“ミッション:インポッシブル”!?

さすがに実話だけあって、面白味や緊迫感あり。
派手なアクションは無いが、じっくりシリアスに魅せていく。何度も言うが、これが本当のスパイの世界。世界を股に駆け、アクションを展開するのはあくまで映画の中のスパイだけ。

一般人にスパイが務まるのか…?
そこは、セールスマンとしての手腕。話術や商戦法などで相手の懐に入っていく。
セールスマンはスパイに向いていた…?

実話とは言え、この手のスパイ物あるある。
ターゲットにシンパシーを感じていく。やがてそれは国やお互いの立場を超えた友情を育んでいく。
接触したのは、GRU=ソ連参謀本部情報総局の高官。
国家に背いた裏切り者。
彼の信念。
共に家族ある身。守らなければならないもの。必ずその元へ帰る。
二人で観劇したバレエのシーンが印象的。同じ感動を分かち合い、美しさを感じた。
信じた者に何を託せるか。
信じた者の為に何が出来るか。
二人の男のドラマが非常に胸を打つ。

スパイ役は『裏切りのサーカス』以来。
その時はエリート・スパイだったが、今回はスパイはスパイでもまた別。一般人スパイ。
スマートで“エリート・セールスマン”としての顔は十八番の天才雰囲気を感じさせ、その一方人間味も滲ませる。
絶対的名演のベネディクト・カンバーバッチ。
圧巻なのは終盤。スパイ容疑を掛けられ、冷戦下のソ連の収容所に監禁。
劣悪な環境。食事は反吐が出そうなもの。みるみる痩せこけ、肉体的にも精神的にも追い詰められていく。
それを表す為に、丸刈り&大幅減量。
序盤とは見た目も雰囲気も別人のよう。
丸刈り&減量は終盤のこのシーンのみだが、その為に文字通り身体を張って体現し、カンバーバッチの熱演が本作の価値をさらに高めたと言って過言ではない。
本作では叶わなかったが、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』でいよいよオスカー王手。
受賞しても何ら違和感ない、当然の名優。本作を見て、改めてそう思った。

あまりにも数奇で、あまりにもドラマチックな話に、一瞬これが実話である事を忘れてしまったほど。
だって、一般人がスパイとなり、キューバ危機…つまりは第三次世界大戦を回避。友情や信念、家族への愛のドラマもある。
本当に映画そのものではないか!
EDで、本人の実録映像。
事実(ノンフィクション)は小説(フィクション)を大きく凌駕する。

彼は何故スパイでもなかったのに、この任務に命を懸けたのか。
いちいち言う必要も無い。
たった一人の行動が、世界を救う。
それを地で行き、決して不可能ではない。

近大