「絶対にスパイにはなりたくない」クーリエ 最高機密の運び屋 よしえさんの映画レビュー(感想・評価)
絶対にスパイにはなりたくない
1960年代の冷戦、そしてキューバ危機を背景に、実話に基づき東西陣営の間で情報を運んだ男の物語。
主役である、素人ながら運び屋を務めたグレヴィル・ウィンをベネディクト・カンバーバッチが演じている。冒頭、普段よりもふくよかだったベネ様が、終盤には痛々しいほどやせ衰えて、いったいどれほど過酷な肉体作りをしたのかと妙に感動した。いやしかし、あの姿を見てしまっては、今後まかり間違ってスパイに成る機会が訪れたとしても、絶対にやりたくないものだと思う。
物語は中盤から緊迫の度を増していく。東西冷戦のさなかのスパイ活動だから、それはもう想像の上を行くような緊張感の連続だったのだろう。実話をベースにしていると分かって観るから尚更である。あまりこの言葉を使うのは好きではないが、文字どおりの「事実は小説より奇なり」。
一方で現代と違い、スパイ行為も防諜活動もアナクロな手法に頼らざるを得ない時代の話ということに改めて隔世の念を覚える。たった60年前のことなのに、何たる不便なことか。この10年後くらいに自分は生まれているのだけど、その目から見ても実に限られた手段で危険なやり取りをしていたのだなあと感心する。
この映画のベースになった実話が、人類史上最も破滅に近づいた機器を救ったのだと思うと、今の平和がありがたく感じられる。
なお蛇足ながら映画自体の話をすると、音楽が素晴らしく、また機能美溢れるソビエト連邦の建物や調度に目を奪われた。飾り気はないがあれは良い。
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